第3話


「はぁ……はぁ」

「はぁ……はぁ」


 お互いボロボロ状態。魔法も簡単なモノを使えるかどうかギリギリの瀬戸際。


 ――でも、それは相手も同じ事!


 正直、今まで自分がどうやって動いていたのかも、どうして相手がボロボロなのかも分からない。


「まっ、まさかここまでやるとはな。褒めてやるぞ、人間」

「あんたに褒められても嬉しくもないわよ」

「貴様がその剣を持っていたのには驚いたがな」

「……」


 ――別に好きでこの剣を持っているワケじゃないわよ。


 私はただ「剣を持っていても動きやすい」そんな使い勝手の良い、細くて切れ味の鋭いそれこそ「レイピア」の様なモノを探していたのだ。


 ――でも。


 しかし「剣が私を選んだ」のだ。


 そして、女性が持つには大きく使い勝手の悪そうなこの剣。実は「かつて魔王を滅ぼした国王が持っていたモノ」だったのだ。


 正直「どうして」という気持ちがなかったワケじゃない。でも、私以外の人が手に取る事すら出来ず、コレを保管していた王宮にいる騎士や騎士団長の息子であるフィージアだけでなくスティアート王子ですらこの剣を取る事は出来なかった。


 ――王子はその事を気にしていたけど。


 でも、王子がそれを表に出したり私に言ったりする事はしない。ただ、私がそう感じただけの話。


 ――ただ、かつての国王が持っていたモノだから、当然王子にも思い入れはあったでしょうね。


「貴様がこうして一人で我に立ち向かい、こうして追い詰めている事実。感嘆に値する」

「それはどうも」


 そう言い合いをしているのも体力的にギリギリ。


「しかし人間、なぜここまでする。なぜだ」

「は? なぜ? そんなの……」


 ――人の為とか国の為とか言えたらかっこいいんでしょうけど。


「自分の為よ」


 魔王に向かって私はハッキリとそう断言した。


「……ふふ、ははは! そうか、自分の為か! これは面白い!」

「ふん、笑いたければ笑えばいいわ」

「しかし、随分話し方が変わったな。とても貴族の令嬢とは思えぬ」

「……はっ!」


 今更ながら気がついた私は思わずハッとする。


「気がついてなかったのか」

「……」

「貴様、面白いな」

「そういうあんたは……楽しそうね」

「楽しい? そうか」

「何」

「いや、そうか。我は寂しかったのか。人間と共存すれば楽しい未来があると思っていた。だが、実際はそんな楽しい事ばかりではなかった。そうか」

「……ん?」


 ――何、あの黒いモヤみたいなモノ。


 ふと気がつくと、一人でブツブツと話している魔王の背後に黒いモヤの様なモノが見える。


「ぐぁ!」


 ――魔王から出されている? いや、違う!


「っ!」


 そう思った瞬間、私はすぐに防御態勢に入って攻撃を受けた。


「離……れろ」

「え?」

「人間が見たのは我に憑いているヤツだ。大方察しはついていたのだろう?」

「……」


 魔王の言葉に、私は思わず返事をしそうになった。


 ――ええ、察しはついていたわよ。入学式の後からライア様が現れなかった事も、騎士団長の息子のフィージアがいない事も全て『理由』があって、それが全て王子の指示だって事もね。


「大丈夫だ。こやつにそこまでの力はもうない。だが、こやつを外に放てば主の元に戻る。そうなれば、その大元の取り憑いているであろう人間に負荷がかかる上に元の強さに戻ってしまう」

「……じゃあ、あんたを見殺しにして私だけ助かれって事?」

「……」


 ――無言。要するにそういう事。でも!


「冗談じゃないわ!」

「なっ、なぜだ!」

「見殺しにしたら夢見が悪いのよ!」

「自分の為なのだろ?」


 そう言って穏やかな顔を見せる魔王は、私の知る魔王とは違う様に見える。


「ええそうよ。それが結果的に国の為になっているだけの事。だから、コレも自分の為よ」

「なぜ……そこまで」

「魔王を助けた……なんて、それこそ自分の為以外の何モノだと言うのよ」


 ふて腐れ気味にそう言うと、魔王はまた穏やかに笑い……そしてギロリと睨みつけ……私はそれに相対し、剣を構えた――。

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