第10章 隠された真実
第1話
「大変失礼致しました。お父様、お母様」
リナリーが近衛兵たちに連れて行かれて外に出たのを確認した王子はすぐに二人に謝罪した。
「いや、いい」
「ええ、あなたに非はありませんから」
そうした二人の言葉を受けて、ようやく今が卒業パーティーの最中だという事を思い出す。
「だが、これだけではないのだろう?」
国王陛下は全てお見通しなのか、王子に向かってそう告げる。
「……はい」
王子もそれが分かっているからなのか、特に反論もせずに素直に答える。
「え、どういう事?」
「そういえば、レイチェル様がいらっしゃらない様だけど」
ただ、ここにいる人たちは状況がよく分かっていない様だ。
それに、ついさっきリナリーが「あの女」と言って王子を襲おうとした事もあり、周囲の人たちはようやく姉がいない事に気がついたらしい。
よっぽど浮かれていたのだろうとは思うが、まさか今まで誰も気がついていなかったのだろうか。それはそれで問題だ。
「ラファエル」
そう声をかけられ、自分の仲の良い女性が近衛兵に連れて行かれたにも関わらず突っ立っていたラファエルはハッとした様子で王子を見る。
「……やはり。そうか」
王子は何かに気がついているらしく、ラファエルにそのまま近づく。
「なっ、なんだ」
「君、誰かに操られていないか」
「なっ、何をバカな事を」
「では聞くが、つい先程お前の恋仲とも言うべき女性が近衛兵に連れて行かれた。それなのになぜ、君はそれを止めもせずただ固まっていた。いや、彼女が俺に意見をした時点でなぜ君は彼女に同意しなかった」
言われてみると確かにそうだ。
しかも、最初に「結界を作ったのはリナリーだ」と王子に言ったのはラファエルの方だった。
しかし、その後に意見を言ったのはラファエルではなく彼女の方。
その上、その間ラファエルは何も言わずに二人の様子を見ていただけだった。
「本当は今もこの状況に驚いているんじゃないか? いや、ずっと昔からたまに自分の知らない内に状況が変わっていた事が多々あったのではないか?」
「……」
王子にそう言われ、ラファエルは何も言わずに俯く。
「……だからなんだと言うんだ。今更、どうしようもない」
小さく、しかしハッキリと聞こえたラファエルその言葉が、王子の言葉を肯定していた。
「操られていたという実感はあるのか」
「いや、なかった。ただ、気が遠くなったかと思えばいつの間にか状況が変わっていた。ここ最近は……もう諦めていた」
力なく答えるラファエルに王子は彼の肩にソッと手を置く。
「そうか。しかし、そうなったのはここ最近ではない。そうだろう?」
「……ああ。もっと前。思い返してみると、それこそ君と疎遠になった頃くらいからだ」
そう答えたラファエルに王子はジロッとパーティー会場の後ろの方に視線を飛ばし、ある人物を見る。
そして「――だそうだ」とあたかもその人物に言っているかの様に大きな声で言う。
「……」
「聞こえなかったのか、ライア・オーシャン宰相夫人」
王子そう名指しした事により、その場にいたほぼ全員が王子の視線の先にいる女性へと向けられた。
「あらあら、怖い顔」
しかし、当の本人は向けられている視線を全く気にせず口元に扇を当てて小さく笑っている。
「お前の正体は分かっている」
「おやおや、何を仰いますやら。先程殿下自ら名前をお呼びになったではありませんか」
そう言って夫人は「おかしな人」と小さく「クスクス」と笑う。
「いや、お前は夫人ではない。見た目は確かに夫人だが夫人を乗っ取った『悪魔』だ」
「……」
王子がそう断言したところで、一瞬ギロリと目が光った様な気がし、ギルバートは一瞬怯んだ。
その視線は明らかに宰相夫人が……いや、人間のモノではなくダンジョン巡り。しかも高難易度のダンジョンに出てくる様な魔物が放つモノそのものだった。
「悪魔……ですか。一国の王子がまた。面白い事を」
しかし、すぐにその視線は形を潜め、先程の同じような人間のモノに戻った。
「お前は元々魔王に仕えていた魔物の一人だという事も調べがついている。そして、当時人間と魔物の共存に反対していたお前は自分の肉体を意識のみにし、隙を見計らって魔王に取り憑き、戦争を起こさせた」
「……」
その一言に周りは騒然となった。
そもそも「魔物が人間に取り憑く」と言う話も驚きだったが、それ以上に「肉体を自分の意識のみにした」という話があまりにも衝撃だったからだ。
「え! そんな事が!?」
「でも、魔物なら……」
「そっ、それじゃあこの方は本当に?」
王子の話を聞いた夫人の周りにいた人たちは次第に夫人から距離を取っている。
中には「本当か?」とか「王子の妄言じゃないか」とか言っている輩もいたけど、ギルバートとユリアはカノンから魔王の話を聞いて「意識を具現化させる事が可能」という事を知っている。
しかし、魔王ほどの力はないからなのか、具現化までは出来なかった様だ……とすら思っていた。
「しかし、魔王が我が先祖率いるパーティに封印されると自分の意思を少量残し別の人間に取り憑いた。それがライア夫人だ」
当時、ライア夫人は宰相の後妻とし迎えられ、社交界では浮いた存在になっていた。多分、そんな精神的に不安定なところをつけ込まれたのだろう。
それくらい「貴族の社交界」というのは気を遣う。
「しかし、俺たちが魔法学園に入学してすぐライア様は我が婚約者に会いに来ている。それはラファエルの監視のためにだ」
「!」
ギルバートはその事実をレイチェルから聞かされていなかった。しかし、王子はレイチェルに「影」とも言うべき兵をつけていたのでこの事を知っていたのだ。
ちなみに、レイチェルが嫌がらせを受けていた事もこの「影」から聞かされていて、そしてレイチェルの意向を汲んであえて何も言わずにいた。
「お母様が」
「完全には浸食されていなかったのだろう。一縷の望みをかけて我が婚約者にその事を頼みに行って以降は音沙汰がなく、我が婚約者はそれを心配していた。だが、それもそのはず。その後すぐに完全に乗っ取られてしまったのだからな」
もう一度射貫くような目を夫人に向けると、夫人は突然――。
「あーあ。残念、このままいけば息子の方を乗っ取ってやろうっておもっていたのに」
さっきまでの口調とは打って変わり、なれなれしい口調になり、夫人は軽くラファエルに指をさした。すると……突然ラファエルの体から黒いモヤの様なモノが溢れ出て来た。
そして、それは夫人の体の中に入り込み――。
「でも、この程度のレベルじゃあどうせ使いモノにならなかったか。もう良いわ。あんたは用なしよ」
その言葉と共に発せられた黒い小さな塊がラファエルの元へと飛び……大きな騒音と共に会場の窓が敷き詰められている壁を粉々に砕いた――。
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