第3話


『ハァ……ハァ』

「大丈夫?」


 一目散に駆けるカノンに、私は思わず問いかける。


『ええ、大丈夫よ。とりあえず振り落とされないようにしなさい』

「うっ、うん」


 私はカノンに言われるがまま必死にくっつく。


「……」


 こんな魔王が復活してこれから闘いに行くというタイミングなのに、意外に落ち着いている自分に少し驚いていた。


 ――それにしても、一体どこを走っているのかしら。


 ゲームでは基本的にデフォルメされたキャラクターが広いマップを行き来しているだけだったので、こうして「道を歩く」という事もダンジョン巡りの醍醐味の一つだった。


 しかし、今までのダンジョン巡りでは魔王領に近づく事はほとんどしなかったため、そもそも今自分がどこを走っているのか全然分からない。


 ――でも、こんな入り組んだ道は通らなかったはず。


 確か、ゲームの中ではたくさんの人たちに見送られて魔王領に出発している。


 ――まぁ「そんな盛大に見送っている暇があったらさっさと倒しにいきなさいよ!」と言っているところだけど。


 とりあえずはそれは置いておくとして、その時に主人公たちが入っていった場所はすでにダンジョンになっていた。


 ――でも、カノンが通っている場所はダンジョンでもないただの道。


 しかも、通常のダンジョン巡りの時の様に魔物とはち合わせになる事もない。


「……」


 ――もしかしたら、カノンがもの凄い早さで駆け抜けているから、戦闘にならないだけかも。


 それならば戦闘に発展しないのも納得だ。


 カノンは、私の使い魔になった後。夏休み中はずっと私の後に付いてダンジョン巡りにも参加していた。


 ――その時から戦闘に参加していて、下手をすれば魔法学園の生徒よりも強いのよね。


 そして、私と連携する事も出来る程の実力も兼ね備えていた事もあり、こうして私に着いて来てくれたのは正直ありがたかった。


『……っと、どうやら戦闘せずに行けるのはここまでみたいね』

「十分よ」


 本当であれば、ここに来るまでに何度か戦闘をしなくてはならず、体力の消費や魔法量の消費を出来るだけ少なくするという事が課題だった。


 ――それが一度も闘わずに来られたのだから、感謝すべきだわ。


「ウゥ」


『早速お出まし……みたいね』

「そうみたいね」


 魔王城の扉を開けた瞬間。聞こえてきたのは動物の様な様々なうめき声。しかし、それら全てどことなく苦しそうに聞こえる。


「……悪いけど、あなたたちに付き合っている時間はないの」


 そう言って私は両手を大きく広げ、巨大な魔法陣を展開した。その瞬間発現する強力な竜巻が魔王城の壁に大きな風穴を開けた。


「思った以上に数がいるみたいね。しかも、今の攻撃を避けた魔物も多い」

『そりゃあ、魔王に使える従者が弱いワケないからね』

「……」


 確かにその通りではあるけど、私としてはこんなところであまり時間を取られたくない。


『先に行きなさい。さっきと同じ魔法を使えば道を作れる。いつもの姿になれば移動もしやすいし襲ってくるヤツらは私が蹴散らす。それに、私が案内すればすぐに魔王様の部屋に着くわ』

「……分かったわ。それで行きましょう」


 そして、いつもの子犬の様な姿になったカノンを方に乗せ、さっきと同じように魔法を展開し、巨大な音共に魔物を蹴散らして出来た道を風魔法に移動魔法に応用して突き進む。


『止まれ!』


 たまにそう言って邪魔をしてくる相手もいたけど、そんなヤツらはカノンが炎を吐き出して蹴散らした。


『そこを右!』


 さすが魔王様に仕えていただけあって、場所を把握していたカノンの案内に従って城を突き進む。


 ――ゲームの中の魔王城って、本当に迷路みたいだったから、こうして案内してくれるのはありがたいわ。


 時々出てくる敵もカノンのおかげで全てを相手する事なく、進む事が出来ている。


「……」

『……』


 こうして何とか魔王が待つ部屋の入り口の前に私たちは立つと……。


『!』


 扉を開けようとしたところ、なぜか扉が勝手に開いた。


『入って来いって事かしら』

「……そうみたいね」


 ゲームの中でも魔王との戦闘前にセーブが出来様になっていたし、道具を使って体力や怪我などを治すのもここで行ってから戦闘に望んでいた。


『準備はいい?』

「ええ」


 私たちはお互い頷き合うと、魔王城へと入っていった――。

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