第2話


「さて、どうしましょうか」


 レイチェルが魔王討伐へと向かった後。ユリアはすぐに寮へと戻った。

なぜなら、すぐにギルバートが迎えに来るからだ。


「誤魔化す必要はないとの事ですが」


 レイチェルは「ギルバートに言伝」を残して行った。しかし、それは決して「その場を誤魔化して欲しい」と思って言ったモノではない。

 ただ、ユリアとしては「言伝をギルバートに伝えたとして、果たして取り乱さないだろうか」という心配の気持ちの方が強かった。


「随分、変わられましたね」


 ギルバートは養子に来た当初、生家からの命令で盗みをしていた。

 それをレイチェルが母親に伝え、その命令をしていた生家との繋がりを絶たせる事に成功した後は笑顔も増え、今では仲むつまじい姉思いの少年に成長を遂げた。


「……」


 たまに「心配しすぎでは?」とこちらが言いたくなるほどの心配性でもあるけど。


「果たして、どういった反応をされるでしょうか」


 部屋をノックする音が聞こえ、ユリアは一人そう小さく呟き「はい」という言葉と共にギルバートを出迎えた。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「え! 姉さんが!」


 レイチェルを迎えに来たギルバートはレイチェルが魔王討伐に向かった事を聞くと、ものすごく驚いた。


「はい」

「はっ、早く追わないと!」


 そして、取り乱すという事も最初から予想出来ていた反応だ。


「落ち着いて下さい。ギルバート様もいらっしゃらないとなると、それこそアルムス家の品位を問われます」

「でっ、でも!」


 ギルバートの気持ちも理解出来るからこそ、ユリアはあまり咎めない。そもそも「許されるのなら」と思っていたほどだ。


「……どうされました」

「スッ、スティアート王子!」


 本来であれば婚約者であるはずの王子が迎えに来るのが普通だ。しかし、今日のパーティーには国王陛下や王妃も参加されるため、二人と共に先に会場に行く事になっていたのだ。


「こんなところで取り乱して」

「え、あの」


 普通であれば「婚約者がパーティーをほったらかす」なんて事はあってはならない。だからこそ、ギルバートはこの場を何とか誤魔化そうとしているのだろう。


「……レイチェルは、いないのですね」

「申し訳ありません」

「そうですか……なるほど。早いですね、私たちが予想していたタイミングよりも大分」


 多くは語らずとも王子は思い当たる節があるのか、それ以上は何も聞かない。


「あの、どういう事でしょうか」


 ただ、この場でギルバートだけ状況説明もなく分かっていない様だ。


「……乗ってください。移動ついでに説明します」

「説明?」


 ギルバートは王子の言葉に不審そうな表情を向ける。


「はい、この後のパーティーであるでろう茶番と……それをいや、今までの『黒幕』をあぶり出すための話を」

「茶番? それに『黒幕』とは」

「……」


 ユリアは王子の口ぶりを聞いた瞬間「王子は全てを知っている」そう察した――。

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