第9章 魔王戦とパーティーでの一悶着

第1話


「お嬢様、本当に向かわれるのですか」


 パーティーに行く準備の途中だった私は急いでドレスなどを脱ぎ、いつも王子たちとダンジョン巡りをしている服装に着替えて人気ひとけのない森にいた。


「……ええ」


 ゲームの中で魔王が復活するのはこのパーティーの直後。しかも、卒業式前日の夜だった。


 ――まさか早まるなんて。


 正直、誤算だった。でも、今まででも色々な点でゲームとは違う事はよく知っていた。


 ――それなのに。


 さすがに最後の『戦闘イベント』とも言える「魔王戦」のタイミングは変わらないだろうと心のどこかで思っていた自分に腹が立つ。


「しかし、これから卒業を祝うパーティー。そこには国王様や王妃様も来られる予定。その中でお嬢様がいらっしゃらないとなると」


 ユリアの懸念はもっともだ。


「……」


 私はスティアート王子の婚約者。今までは「どうしても出なければいけないモノ以外は出なくてもいい」という王子の言葉に甘えてあまり人前に出てこなかった。


 ――今回のパーティーは婚約者としては絶対でなければいけないでしょうね。でも……。


 魔王が復活したのはついさっきの出来事。そこからパーティーが終わってから向かうのではとてもじゃないけど私一人で対処出来るか分からない。


 ――今ですら分からないと言うのに。


 正直、ゲームの中ですら「ほぼチート級」の強さを誇っている魔王に私の力が及ぶか分からない。


 ――だからこそ、叩くなら今すぐにでもいかないと。


「……ユリア」

「はい」

「確か、ギルバートが迎えに来てくれる手はずになっていたのよね」

「はっ、はい」

「それじゃあ、ギルバートに『お嬢様は魔王を倒しに向かいました』と伝えて」

「そんな! おっ、お嬢様が向かわれるのであれば私も!」


 私はユリアに言伝を頼もうと思ったけど、どうやらユリアは着いて来る気でいるらしい。


 ――確かに、ユリアなら少なくとも足手まといにはならないでしょうね。


 最初でこそ留守番が多かったユリアだったけど、私に過去を話した後はどこか吹っ切れて一緒にダンジョン巡りをしていた。

 だから、今のユリアは下手をすれば王宮の一般騎士よりも上の実力を持っている状態だ。


 ――でも。


「ありがとう、ユリア。でも、あなたにはギルバートについて欲しいの」

「なっ、なぜ! 私では……」

「いいえ。そうじゃないの」

「それじゃあ!」


 ――ここまで私を心配してくれるのね。


 私としては、それだけで胸がいっぱいになるほど嬉しい事だったけど、コレは決して私のワガママではない。


「正直、確信があるワケじゃないけど……」


 そう言って私はユリアにコソッと耳打ちをする。


「……! それは」


 ――ずっと疑問に思っていた事がある。そして、カノンから聞いた過去の魔王の話。


 それらを聞いて私の中で一つの仮説が立っていた。


 ――もし、私の仮説がその通りだったとすると、本当の敵は『魔王』じゃない。そして、この仮説の通りだったとしたらファンディスクで明かされる『真実』にも納得が出来る。


「――だから」

「わっ……分かりました。正直、信じがたい話ではありますが」

「ええ、でも。警戒しておいて損はないわ。それに、もしこの仮説が現実のモノになってしまったら……おそらく対処出来る人間は限られる。だから、あなたにはその戦力としてその場にいて欲しい」


 ――その対処を失敗してしまうと、下手をすれば国の存亡にも繋がりかねない。


 それくらい今の状況はある種の「分岐点」に立っている。


「了解致しました」

「ええ、よろしくね」

「お嬢様もお気を付けて」


『さてと……終わった?』

「ええ、お待たせ」

「カノン、お嬢様をくれぐれもよろしく」


 そう言うユリアに対し、カノンは鼻を鳴らして「言われずとも」と言う様子で私を背中に乗せた。


『それじゃあ……行くよ!』


 真っ直ぐと真剣な眼差しで私を見るユリアに見送られながら、私は本来の姿になったカノンと共に急いで魔王領へと向かったのだった。

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