第5話
『……あなたって』
「ん?」
『私の知る貴族令嬢とは全然違うのね』
「……それってどういう意味かしら」
サラリと言われた言葉に、私は思わず反応してしまう。
『いえ? 別に大した事じゃないのよ? ただ、私の知る令嬢とは全然違う様に見えてね』
――まぁ、確かに。普通の令嬢はダンジョンにいそいそと赴いたり、特訓に勤しんだりしないでしょうね。
しかし、正直な話。それも「今更」なところがあり、私自身忘れてしまっているところがあった。
でも、こうして指摘されると「やっぱり私は普通と違うのね」と気付かされる。
『でも、私は普通の令嬢じゃないあなたの使い魔になれてよかったと思っているわ。退屈しなさそうだもの』
「それは良かったわ」
夏休みの間に彼女と私は「使い魔の儀式」を行い。私は彼女に『カノン』と名付け、使い魔とした。
――それにしても、私が作った結界にあんな機能があったなんてね。
しかし、あれは表立って公表していないが、スティアート王子も少し関わっている。
――そういえば「光魔法」って、魔法レベルを上げると「聖魔法」に名称が変わるのね。
そして、魔王が使うとされている「闇魔法」は「暗黒魔法」に変わる様だ。
ちなみに、魔法のレベルが上がる事によってその魔法の名称が変わるのは希少性の高いこの二つだけらしい。
「……そういえば」
――王子は主人公が「光魔法を使える」という事にあまり関心を示さなかったわね。
その上、カノンの話を聞く限り王子も関わった結界で呪いの魔法道具を破壊する事が出来た様だ。
「……」
――まさか。
私は最初「王子も光魔法がつかえるのでは?」と考えたけど、すぐにそれを否定した。
なぜなら、スティアート王子は元々別の魔法を使っているからだ。
しかし、複数の属性の魔法を使えないという決まりはない。ただ前例がないというだけで……。
――私は風魔法しか使えないからその可能性には気がつかなかったわ。
ユリアから魔法量の消費を大幅に押さえた魔法の発動方法を習ってはいたけど、それはあくまでユリアの魔法を改良したモノを使っている。
「……何」
『随分な百面相だと思ってね』
「……」
『まぁ、そんなに鍛えているのは……魔王様を倒そうって事かしら』
「ええ」
『みんなで力を合わせれば……って思っているの?』
「……いいえ」
カノンの言葉を私は真っ向から否定する。
『まさか、一人で?』
驚きの表情を見せるカノンに、私は小さく頷く。
――正直「これだけレベルを上げれば」って思っていたけど。
カノンの話を聞いて、その考えを改めた。なぜなら、過去最強と謳われていたアクア王国の子孫のパーティですら、魔王を倒す事は出来なかったのだ。
――それを「一人で」なんて、本当に無謀よね。
しかし、そうしなければ……。
――あれ、でも。今の私なら国外追放をされる心配はないんじゃ……。
一瞬その可能性が頭を過ぎった。
確かに、今の私は王子との仲も悪くなく、ギルバートやステラ様とも仲が良い。その上、国を守る結界を作った製作者でもある。端から見れば「国外追放の心配」をする必要すらない様に見える。
――いいえ「何が起きるか分からない」が人生で貴族社会だもの。どこでほころびが出るか分からないわ。
そう思う事で自分を律した。
『……あなたの魔法や身体能力のレベルならと思うところはあるわ。でも』
「分かっているわ。そんなレベルだけの話じゃないって事くらい」
結局、私は今も自分のレベルを知っていない。それを知った事で慢心も悲観もしたくなかった。
――言い訳がましいけど。
そんな事を考えていると、ふと頭を過ぎるのは主人公の事だ。
あれだけの成績でありながら、彼女はあまり戦闘に関して積極的には見えなかった。
――今にして思うと、ひょっとしたら王子やギルバートのレベルがゲームクリアの最低限のレベルを超えていると思っていたのかも知れないわね。
そして、自分はサポートもせず徹底的に逃げに徹する……そうすれば最悪負けはしないと踏んでいたのかも知れない。
――でもね。回避するにしても最低限のレベルって必要なのよ。
しかも、魔王領に入るにも「最低レベル」というモノが設定されていて、それをクリアしなければ魔王領に入る事すら出来ないのだけど……。
――多分、それを見ていないのね。よっぽどの事がなければそもそもたどり着けない……なんて事にはならないように作られているから。
これまでの行動を見る限り考えられる主人公の行動の意味を推察して、私はあまりにも楽観的な考えに頭を抱えそうになった。
『どうかしたの?』
「いいえ、何でもないわ」
『シャッキリしなさい。これから卒業前のパーティーなんでしょ?』
「えっ、ええ」
そう、今日は卒業前日のパーティー。実はここでレイチェルは婚約破棄をされている。
――緊張しないと言えば嘘になるけど。
なんて思っていたのも束の間。
「!」
『!』
私とカノンは突然感じた『重い魔力』に思わずバルコニーへと掛けだした。
「お嬢様!?」
ユリアは何も感じなかったのか、私とカノンの行動に驚いている。
「……気がついた?」
『ええ。今のは……魔王様の魔力。魔王様が……復活したわ』
小さくうなるように言うカノンの表情から、私はそれが「嘘」ではなく「事実」だと悟った――。
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