第3話


「……」


 帰宅後、保護をした魔物……いや、見た目は前世で見た『狼』にも見える白い動物を見つめていた。

 怪我も治療し、汚れも落として見て気が付いたけど、なかなか毛並みが良さそうだ。


 ――ただ、目を覚まして暴れられても困るから。


 そういった理由からフサフサの触り心地の良さそうな毛を触ることが出来ずにいた。


 ――でも、仕方がないわよね。


 私としては「私の前に現れたのは何か理由があるのだろう」とは思っていたけど、それとこれとやはり話は別な様だ。


「……」


 彼か彼女かは分からないけど、その周りには簡易的ではあるものの『結界』が張られていて、上級の魔物でもコレを破るのはなかなか難しい。


 ――私が作った……というよりは、みんなに手伝ってもらって出来た代物……なんだけど。


 しかし、周囲の人たちは「これはレイチェル様が作られたモノ」と認識されていて、製作者も私の名前になっている。


 ――私としては王子の名前にしたかったのだけど。


 ただ、他ならぬ王子が「私の名前で」と言っているのだからコレは仕方がない。


 そもそも『結界』は、魔法ではなく「魔法道具」を使用しての常時発動型の魔方陣で、ずっと昔には存在していた代物ではあったらしい。

 しかし、今のこの世界では既に失われていて、あくまで私はそれを少し改良させて復活させただけに他ならないのだけど。


 ――それを言ったら「謙遜しないで」みたいな事をステラ様に言われちゃったのよね。


 ただ、一応言っておくが、それは決して「謙遜」なんかではない。

 私自身は「出来るだけ目立つような事を避けて自分の目的を達成したい」という気持ちが強いから、本当はこういった事は出来るだけ避けたかった。


 けれども魔物に困っている人たちからすれば、コレは画期的なモノだったらしく、今では人が住んでいるところではほとんどコレが使われている。


 ――そもそも、昔に使われていたとされている『結界』はここまでの強度じゃなかったみたいなのよね。


 それこそ「一日持てばいい方」とくらいのモノだった様だ。


 しかし、私が改良したものはこの世界でいうところの「一か月は持つ」モノで、なおかつ「誰でも使えるモノ」である。


 ――でも。


 私がこういったモノを作ったせいで自然バランスが崩れて苦しむ子が出るのは本意ではない。


 ――それに、苦しんでいても人間であるはずの私に気が付いていたはずだし、それでも助けを求めたという事は……。


 今は自己治癒をしているのか、穏やかな寝息をたてて眠る動物を前に私は「それらも含めて色々と聞かないといけないわね」とお茶を飲みながら眺めていた。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


『……ん』

「あら、気がついた?」


 もぞもぞと動く様子は、下手をすると『犬』にも見えてしまうほど、可愛らしい。


 ――って、そうじゃなくて。


『……あなたがここまで運んでくれたのですか?』

「ええ。それにしても、会話が成り立っているのに驚かないのね」

『それはあなたが私を助けた時点でなんとなく分かった。それに、あなたがかなりの使い手だという事も』

「……そう」


 私としては、目を覚ました瞬間に取り乱すと思っていたけど、結界にいる魔物は意外と冷静だった。


 ――むしろ、私の方が戸惑っている感じがするわ。


 私がそんな事を思っているのを知って知らずか……魔物が立ち上がり体を震わせた瞬間。何やら「ゴトン」という鈍い音が鳴った。


「ん? あなた、それ」

『ああ……』


 その落ちたモノは「首輪」の様に見える。


『私は、コレを魔王様に付けられそうになり逃げて来たのです』

「……詳しく教えて頂戴」


 小さく零すように呟いたその言葉に、私はイスに座り直しながら続きを促した――。

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