第2話


『うぅ……』

「!」


 ――コレは……魔物? でも、どことなく違う様な……。


 しかし、私が今までダンジョンやダンジョンに向かう道中で見かける魔物とは少し違う様に見える。


「姉さん、どうしたの。突然……!」


 ギルバートも私と合流したけど、私の目の前に魔物がいると分かると「離れて!」と私の前に出る。


「なんでこんなところに……」


 ギルバートはそう零すように言って倒れている魔物と距離を保つ。


 ――本当に、どうしてこんなところに。


 そう、実は私たちが家に帰るために通っていた道や街中には強力な魔物避けの術式が張られており、低級または中級の魔物は近づくことすら出来ない。

 ごく稀に強い魔物が出てくる事があるけど、そういった時は大抵騎士団が対処してくれる上に、侵入すれば何かしらの警報が発令されるようになっている。


 ――でも、それすらないと言う事は……。


 この子は「普通の魔物とは違う」という事を意味している様に思えてならない。


「……」

「姉さん? ちょっ!」


 そう感じた私はギルバートの制止を振り切り、魔物に近づく。すると……。


『助けて』

「え」


 ――何、今。声が……もしかして、この子?


『助けて、苦しい。動けない』

「……」


 今まで聞いた事のない声に同様が隠せない。そもそも、馬車を動かしている運転手も我が家の使用人の一人だ。

 それに、何度か話をした事もあるので、声も聞いた事がある。その上、他に馬車に乗っているのはユリアとギルバートだから、二人の声を間違えるはずもない。


「……」


「姉さん、危ないから」

「そうです。お嬢様、ここは騎士団の方にお任せをして……」


 この二人の態度がこの世界では普通の対応だろう。でも、私にはこの魔物が「普通」とは違う様に思えてならなかった。


「……」


 ――まだ息がある。それに、私に語りかけてきている上にここにいると言う事は……少なからず上級クラス。


 魔物にも階級がある事は知っている。文献によると、上級のモノになればなるほど人間と会話する事も可能だとか。


「……」

「姉さん、まさか」


 私が無言のままその動物を見下ろしていると、ギルバートは私が何を考えているのか察したのか、おそるおそる尋ねる。


 ――この子も随分、私の事が分かる様になったわね。


 昔から私の行動は「普通じゃない」と言われるけど、ギルバートはよく私の言動に気がつく。

 ギルバート曰く「僕たちはこう考えるけど、姉さんならこう考えるよねって常に考えているから」との事。

 つまり、私の行動は常に考えないといけないほどこの世界の「常識」から逸脱しているらしい。


 ――でも、この子とこのタイミングで出会ったのにはきっと何か『意味』があると考えても不思議じゃないわ。


 そう感じていた私は、ギルバートに向かって「そのまさかよ」と言いつつ、ユリアの方を振り返る。


「……了解致しました」


 ユリアも私の言いたい事が何となく分かったのか、小さくため息をつきつつ「保護致します」と言ってくれた。


「うん、お願いね」


 前世の記憶を思い出す前の私だったら、ユリアのため息を見た瞬間に咎めていただろう。


 ――いえ、その前に魔物に気がつかなかったかも知れないし、気がついていてもヒステリーを起こして王子に「ちゃんと警備をしてください!」とか言いに言っていたかも知れないわね。


 それが「何か意味があるかも」と言って保護しようとしているのだ。ずいぶんな心変わりだろう。


 ――それにしても。


 ゲームのストーリー展開を思い返してみても、魔物は基本的に倒すモノあって、この様な出会い方はしていなかった様に思う。


「……」


 ――でも、警報も何もなくこの場にこの子がいる事も、私に助けを求めているのもきっと……。


 今までの事を踏まえつつ、私はいくつかの疑問を抱えたまま、自宅へと急いで帰宅したのだった。

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