第8章 魔王復活
第1話
「うーん!」
主人公からの嫌がらせも回避しつつ、毎日を過ごしていた私は、あっという間に三年目の長期休暇を迎え、私とギルバートは自宅へと戻る途中だった。
――ユリアには申し訳ないけど、王子にも私が嫌がらせを受けている事は知られていないようだし。今のところは。
しかし、いつバレてもおかしくはないのだけど。
――バレたらその時はその時ね。
「はぁ」
そんな事を考えていると、何やら小さくため息をつくギルバートにふと気がついた。
「どうかしたの? ギルバート」
「いや、試験の結果が」
「試験の結果?」
そう言われて思い返してみても、ギルバートも王子もそんなに気にするほど悪い成績ではなかったはずだ。
「姉さんとスティアート様はお互い接戦だったのに、僕は二人に全然敵わなくて……」
「ギルバート」
言われてみれば、確かに今回の私と王子の試験結果はかなりの接戦だった。
「でも、試験結果は競い合うだけのモノじゃないわ」
「うん。分かってはいるんだけど……」
ここ最近は三人でトップの取り合いをしていただけに、今回の差はギルバートにとっては相当ショックだった様だ。
「確かに試験で結果を残すのも大事な事だけど、それ以上に大事なのはその先よ?」
「うん、そうだね」
私がそう言うと、ギルバートはようやく落ち着いたのか、笑顔を見せた。
「……」
――でも、その『先』があるかどうかは……きっと私にかかっているのでしょうね。
今回の試験でも上位成績者の中に主人公の名前もラファエルの名前もなかった。それを考えると、とても主人公をあてには出来そうにない。
――本来なら、この時点でパーティーを組んでダンジョン巡りを始めていないとおかしいモノ。
クラスが違うために主人公の魔法を見た事はないが、試験では実技も含まれている上に筆記よりも実技の方が点数が高いにも関わらず、名前がないところを見ると……何となく魔法のレベルもある程度察しがついた。
――それにしても、騎士団長の息子の名前がどこにもないというのは正直疑問が残るわね。
攻略対象の一人である騎士団長の息子『フィージア』は、他の攻略対象たちとは違い、明るく近所のお兄さんと言った雰囲気の男性だ。
周りがクール系なのもあってか、フィージア様はある意味で「心の癒し」の様になっていて、何かと衝突している他の攻略対象たちのフォローもこなす本当に「良い人」である。
――成績の上位者に名前があるとかそういう事じゃないのよね。
実は、彼の名前は私たちが入学した時からなかった。
――本来なら、私たちと同級生のはずなのに。
しかも、二年時には王子たちと同様に生徒会のメンバーに選出されている。
――もしかして、彼の存在自体ないのかしら?
普通ではゲームの登場人物かつ攻略対象のキャラクターがいない。なんて事はありえない。
しかし、そんな風にすら思ってしまうし、それも「ありえるかも」とすら思えてしまう。
それくらい、今のこの世界は私が前世でプレイしていたゲームとは大きく異なっている。
――もしかして。わっ、私のせいじゃないわよね。
ふとそんな事を考えてしまうけど、私がした事なんて魔法や身体強化の特訓を早めに始めて、イジメなどをしなかった程度だ。
――あ、後はみんなと仲良くダンジョン巡りをしたくらいかしら。
それくらいしかしていない上に、物語の通りスティアート王子とは婚約者の関係でもある。だから、あまり大きな変化は……していないはずだ。多分――。
――むしろ物語の流れから大きく逸れているのは主人公の方だと思うけど。
ゲームの中での主人公は大人しくおしとやか。何事にも一生懸命で成績も優秀といった感じだろう。
――まぁ、確かにゲームの中で試験はミニゲームだからね。
確かに、それと比べたら面白くもない前世で行われていた様な試験で、しかも試験勉強もしなければならない。だから「面白くない」と言ったらそれまでだろう。
――でも、今私が生きている世界はゲームの世界観ではあるけど、ゲームとは違う……
「ん?」
そんな事を考えながらふと外の景色を見ていると……。
「お嬢様?」
私は外で「何か」が倒れている様に見え、すぐに馬車を止める様に言った。
「お嬢様?」
「姉さん?」
同乗していたギルバートとユリアは不思議そうにしていたけど、私は馬車が止まるのを確認してすぐに馬車を降りて「倒れている何か」に近づいた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます