第5話
「どういう事ですか!」
素直に話をした結果……ユリアはものすごく怒り心頭になった。
「ユッ、ユリア落ち着いて」
「コレが落ち着いていられますか! もしかして……」
「ユリア?」
「教科書とか破かれてはいませんか?」
その一言に、私は思わずギクリとした。そして、その一瞬をユリアは見逃さなかった。
「失礼致します!」
「あ」
ユリアは「問答無用!」と言わんばかりにカバンを開け、教科書を手に取ると……。
「はぁ。どうして教えて下さらなかったのですか。この教科書、今日破かれたモノじゃないですよね」
「……」
そう、ユリアの言うとおり教科書を破かれたのは今日ではない。
「確かに、お嬢様はもはや学園の勉強が必要ではない程の実力者だとは思います。それこそ教科書も必要ないほどだという事も。ですが、それでも教科書を破かれるというのは、精神的にくるモノがあるのです」
「……それって」
「あくまで私の経験談ではありますが」
「……そうね。心配をかけてごめんなさい」
そう言って謝ると、ユリアは「分かって頂けたのなら、それでいいです。こちらこそすみません」と逆に謝られてしまった。
「とりあえず、こちらの方は私の方で修復させて頂きます」
「え、直るの?」
「こういった嫌がらせは昔何度かやられましたので」
「へっ、へぇ」
――嫌な慣れ方ね。
しかし、その経験が今に生きているのだから……なんとも皮肉なモノである。
「それにしても、公爵令嬢であるお嬢様にこんな事をして、一体誰でしょう! 全く!」
「はははははー」
何となくの察しはついているけど、それをあえて言うつもりはない。
――まぁ「転生者」とか言われても、大抵の人はキョトンとするでしょうし。
それこそ、入学式の次の日に来たライア様のように……。
「……」
とりあえずユリアに教科書の修復を任せ、私は早速宿題に取りかかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ちなみに、王子とギルバートは今のところ特に主人公から接触はされていない様だ。
間接的に彼女の事を知っている事もあり、二人は相当主人公を警戒しているというのも理由の一つだとは思うけど。
――まぁ「接触出来ない」という事もあるのでしょうけど。
そう思うのには当然理由がある。なぜなら、ゲームの中のラファエルは相当主人公に執着していたからだ。
――多少の変化はあるけど、根っこの部分は変わっていないと思うし。
多分、主人公はラファエルから離れる事が出来ずに思う様に王子とギルバートにアプローチが出来ていないのだろう。
私が思うに多分、ラファエルは主人公に甘えている……というか、執着する事で心の平穏を保っているのではないか……と思っている。
――そんな彼が他の男性。しかも毛嫌いしている王子にアプローチなんてしようものなら黙っているはずがないわよね。
ただ「アプローチは出来なくても嫌がらせは出来るのか」という疑問がないワケではないのだけど……。
――でもまぁ、生徒会に入れなかった時点で王子たちとほとんど接点はなくなった様なモノなのだけど。
そう、実はゲームの中の主人公も生徒会に選ばれている。
多分、そういった関係もあっていくら悪くてもあのテスト結果だったのだろう。
そして、大抵の恋愛イベントはその生徒会の活動中に起きるモノばかりだった。
「はぁ」
そういえば、最初にテスト結果が張り出された時に主人公がかなり取り乱していた事を思い出した。
しかし、授業もまともに受けずにテストを受ければそうなる事くらい普通に考えれば誰でも分かる事だ。
――よっぽど「この世界は自分のためにある」と思っているのでしょうね。
私からしてみれば正直「その自信はどこから来るのだろう」と思ってしまう程である。
だけどそれほど「ゲームの主人公」という事が彼女の中では大事という事なのだろう。
――あれ、そういえば……。
私の記憶が正しければ、確かラファエルも生徒会に選ばれていたはずだ。
「……」
――まぁ、あれだけ執着していれば……そうなるかも知れないわね。
それだけでなく、攻略対象の一人であるはずの騎士団長の息子の姿を一度も見ていないのだけど。
――本当にこの世界はゲームであってゲームではないのね。
明らかに私の前世で知っているゲームとは違う進み方をしている事に戸惑いは覚える。
そして、すぐに「それも全て本人たちが行動をした結果」と言う改めて思い知らされた様な気分になったのだった――。
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