第4話


「お嬢様!? どうされたのですか!」


 主人公からよく分からない宣言をされた日以降。私は度々不可解な事に巻き込まれる事が増えた。この日もそうだ。


「よく分からないけど、ちょっと外を歩いていたら水が降ってきて……」

「とっ、とにかく一度体を温めて下さい!」


 慌てた様子のユリアに申し訳なさを感じつつ、私は言われた通りに着替えに向かう。


「……」


 こういった事は毎日起きるワケじゃない。しかも、主人公が言いたい放題言ってからしばらくは何もなかった。


 ――それなのに。


 ここ最近は、今日のように突然水をかけられたり足を引っかけられたりする事が増えた。


 ――王子もギルバートも出来る限り一緒にいてくれようとしているけれど……


 あっという間に月日が過ぎ、一年を終えた時点で二人は生徒会に選出され、忙しい日々を過ごしていた。

 それと同時に私と過ごす時間は減り、こうしてよく分からない事に巻き込まれる事が増えてしまった。


 ――今年はステラ様も入学されて楽しい日々を過ごせているけど。


 こうした事をされる度に私のテンションは急降下する。


 ――ユリアには申し訳ないけど、今日は寮に帰るだけだったし。


 いつもこうして水をかけられそうになっても、実は身体能力のレベルが高い事もあってか「運良く避けた」という雰囲気を醸し出している。


 ――でも、たまに避けられない状況ってあるのよね。


 そういった時は、大抵魔法を使って服などを乾かして誤魔化している。


 ――それにしても、嫌がらせの仕方が子供よね。


 ただ、こうした子供じみた嫌がらせも分かりきっていたとしても回数が増えればそれとなく嫌な気持ちにはなるモノだ。


 ――いちいち反応するのも面倒だしとは思っていたけど。


 それにしても限度があるだろう。


「王子やギルバート。ステラ様に心配されるような事は避けたいし」


 今はまだこの程度で済んでいるし、対処も出来ている。ただ、今回はさすがに寮へ直行した。なぜなら……。


「さすがに臭いままじゃ、みんなに迷惑だもの」


 そして、これらを誰がしたかはおおよそ予想がついている。


 ――今日も避けるに避けられなかったのよね。


 そう、今回水をかけられ時。私の周りには人がたくさんいた。

 つまり、私が避けてしまうと他の人にかかってしまうという状況で、実はそれを避けられる方法がなかったというワケではない。

 ただ、あの状況でそれをしてしまうと、明らかに目立ってしまう。だからこそ、私はあえてその水を被ったのだ。


 ――結局、色々な人に心配されてしまったけど。


 それでも「悪目立ち」をするよりはまだマシだった。それくらい私は出来るだけ目立たないように生活したかったのだ。


 ――それこそ「魔王復活」が世間に知られる前に終わらせてしまいたいくらいだわ。


 地位とか名誉とかではなく、私が欲しいのは「穏やかな日常」それだけである。


 ――それにしても、私が水を被って「誰が」という話になった時。すぐに主人公の名前が出たのは正直驚きだったわね。


 しかし、よくよく考えた今となっては納得が出来た。


 ――そういえば、私の学年で「庶民」って一人しかいないのよね。


 基本的に貴族は自分たちで掃除や家事などをする事はない。だから「水を投げ捨てる」なんて事はしないし、そもそも知らないのだ。

 そして「そういった事をする可能性の高い人物」としてすぐに名前が出てしまうほど、実は主人公の評判はかなり悪い。


 そもそも公爵令嬢の私に対しての口調もそうだったけど、他の人たちに対してもあの口調で話すらしい。

 どうやら転生者であるらしい彼女は、前世での過ごし方のまま、今も生活をしている様だ。


 ――全く「郷に入っては郷に従え」という言葉を知らないのかしら。


 多分「貴族社会の常識」なども一切知らないのだろう。


「それにしても……」


 主人公の評判が悪い理由は他にもあり、その一つが学業をおろそかにしてところ構わずラファエルとイチャついているところだ。


 ――確か、ゲームで悪い成績だったとしても、上位の順位には入っていたのよね。


 多分、そうしないとゲームの進行する上で困るからだろう。


 ――攻略対象の誰とくっついても、全員貴族だからね。


 この魔法学園で良い成績を残し、魔法関連の職業に就けば、たとえ庶民であっても貴族の家に嫁ぐ事は可能だ。だからこそ、ゲームではこうした仕様にしていたのだろう。


 それくらいこの世界での「魔法」は重要視される。


 ――そのはずなんだけど。


 この学園でテストの上位者は基本的に職員室の掲示板に張り出されるのだけど、その中に主人公の名前を見た事は一度もない。


 ――ただ。


 私や王子。ギルバートが毎回テストの成績を争っていたために、二年の段階で王子とギルバートが生徒会に選出されて私が選出されなかった事に関して、二人は「なぜだ」と不思議そうに言っていた。


 ――それはまぁ、私が辞退しただけなんだけど。


 そもそも私には「魔王を倒す」という目的がある。


 確かに生徒会に入ればその時点で「将来有望だ」という一種の証明の様なモノになるのだけど、それ以上に私にはこちら目的の方が重要だ。


 ――それにしても、主人公が悪役になってどうするのよ。


 主人公が私に対して嫌がらせをする度に、主人公の評判は落ちていき、それと同時にいつも一緒にいるラファエルの評判を落ちている。


「あれ」


 しかし、最初に私の元を訪れて以降。ライア様から音沙汰はない。


 ――今の状況では、将来の宰相候補である息子の評判に関わると思うけど。


「??」


 不思議に思いながらも、私は部屋に戻りユリアが用意してくれた着替えを着たのだけど……。


「お嬢様、今日という今日は何があったのか説明して頂きますよ」


 もの凄い形相のユリアに、私は圧倒されつつも仕方なくこれまで主人公にされてきた嫌がらせを「王子やギルバートには言わない」という前提で話したのだった。

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