第3話
「あんたも転生者なんでしょ! だったら自分の役割を全うしなさいよ!」
「……」
――要するに悪役令嬢らしく自分をイジメなさいって事かしら?
確かに、ゲームの中のレイチェルはその役目を果たしていただろう。
しかし、どこの世界に「自分をイジメて欲しい」と言う物好きがいるのだろうか。
――いや、そもそも。
「あなた、私が誰だか分かって声をかけているの?」
「は? レイチェル・アルムスでしょ? 知っているわよ、それくらい」
「……」
――そういう事を言っているワケじゃないんだけど。
どうやらこの子は「この世界は自分のために存在している」と信じて疑っていない様だ。
しかし、彼女はゲームの中ではいくら「主人公」であっても『庶民』という事に違いはない。
それに比べて私は『公爵令嬢でこの国の王子の婚約者』だ。
普通であれば、貴族ですら声をかける事の出来ない身分の人間なのだが……。
――きっとそれすらも知らないのね。可哀想に。
この学園では『貴族』と『庶民』などの階級は気にしない。なんて決まりはない。でも、そんな決まりはなくともお互いがお互い節度を持って生活をしている。
それにしても、ここまで来ると「不敬」とか「身の程知らず」とか言う言葉も、それどころか何も感情が生まれず、ただひたすらに「何も知らずに可哀想」という気持ちしか出てこない。
「とにかく! 私の邪魔はしないで、あんたは悪役令嬢らしくしていればいいのよ!」
言いたい事だけ言って、彼女はそのまま去ってしまった。
「……ふぅ、何だったのかしら」
「ねっ、姉さん。大丈夫?」
一息つくと、ギルバートが心配そうに私に駆け寄る。
「ギルバート。ええ、大丈夫よ」
「それにしても、今の人……姉さん、まさか知り合い?」
「知り合いって感じじゃなさそうに見えませんでしたが」
「王子」
呆れた様子でスティアート王子も姿を見せた。
「それにしても、先程の方は」
「リナリー様です。お昼にお名前を出した……」
「ああ、光魔法を使えるという方ですか。ふむ、なるほど」
私が主人公の名前を出すと、王子は睨みつける様に彼女が歩いていった方を見る。
「それにしても、一体どういうつもりなんだろうね。一方的に言いたい事だけ言って」
「そうですね。その上随分なれなれしい口調でしたし」
「あの」
苦々しい口調の二人に、私は思わず「二人とも聞いていたの?」と聞いてしまった。
「かなり大きな声だったからね」
「私たちだけでなく、この階にいる生徒のほとんどに聞こえていたのではありませんか?」
サラリと答える二人に、私は冷や汗が流れた。
なぜなら、ついさっき彼女が発言した内容の中に「転生者」や「悪役令嬢」といった言葉が含まれていたからだ。
――どっ、どうしよう。もし「転生」について詳しい事を聞かれたら。
そう思っていたけど。
「心配せずとも。詳しい内容は聞こえていないと思いますよ?」
「うん、とりあえず女子生徒が何か大声で話しているって事くらいしかみんな分からなかったんじゃないかな?」
「え?」
詳しい話を聞いたところ。どうやら二人は主人公が私の名前を出したところで「私が知らない女子生徒に言いがかりを付けられている!」と心配になりここに来てくれたらしい。
「それは……ありがとうございます。わざわざ」
「いえ、そこは気にしなくても大丈夫です」
「そうだよ。それに、一緒に帰ろうと思っていたところだったし」
ギルバートがそう言って笑うと、どことなく王子がギルバートに向けて視線を向けている様に感じた。
――いつの間にこんなに仲良くなったのかしら。きっと、寮で隣の部屋になったからね。
なんて事を思っていると……。
「でも、心配だね」
「え?」
「さっきの人。あの感じだと姉さんに何かしてくるかも知れないよ?」
「そっ、そんな事は……」
正直「ない」とは言い切れない。彼女の発言などを鑑みるに、私がどんな行動をしても言いがかりを付けられそうだ。
「そうですね。これからは学校内では出来る限り私たちがそばにいるべきかも知れませんね」
「そうですね。王子と二人なら、どちらかが一緒にいられなくとも片方がカバー出来そうですし」
王子の言葉の最後にどことなく「不本意ですが」という言葉が見え隠れしていた様に見えたけど、ギルバートはそれに対し笑顔で答える。
――なっ、なんだろう。二人とも私の心配をしてくれているのに、どことなくギスギスしているような……。
そう思ったのは、多分私の勘違いではない……と思う。こうして、私は主人公と初めての対面を終えた。
でも……とりあえず言えるのは、初対面の彼女に対し私はあまり良い印象を得る事は出来なかった。
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