第7章 イジメている暇なんてございません!

第1話


 そんな忠告を受けた次の日。


「レイチェル。どうかされましたか」

「え!? いえ、なっ。何も」


 私は昨日の忠告の内容と主人公の事を考えて授業中も一人悶々と考えていたせいでお昼に王子から呼び出しを受けていた。


「何もという事はないでしょう。いくら今の授業が幼少期に学んだ内容だからと言って、集中力を欠くとは君らしくない」

「……」

「何かあったのではありませんか?」

「……」


 果たしてどこまで言っていいのだろうか。昨日のライア様の話を聞く限り、主人公はゲームでは出来なかった『逆ハーレム』を目指しているらしい。


 ――でも、彼女の発言を鵜呑みには出来ない。


 しかも、それは王子に対し「婚約者がいながら別の女性にうつつを抜かす可能性がある」と言っている様なモノだ。


 ――下手をすれば「不敬罪」になりかねない。


 最悪の場合、私だけでなくお父様やお母様。いや、一族全員首をはねられる可能性すらある。


「私では頼りませんか?」

「そっ、そんな事は!」


 ――でも、そうよね。


 何も言わないという事は、暗にそういう事を言っているのと変わらない。


「あ、あの!」

「はい」


 意を決して話そうとする私に、王子は優しく私の方へと顔を向ける。その穏やかな顔のなんたるや……。


 ――って! そうじゃなくて!


「おっ、王子はリナリーという方をご存じでしょうか?」

「リナリー……ああ、確か珍しい光魔法が使える庶民の方ですね。それがどうかされましたか?」

「いっ、いえ。あの、王子は気になさらないのですか? その、光魔法が使えるという事に関して」

「そうですね。確かに珍しいとは思いますが……それ以外の感想はありませんね。どの魔法もある程度鍛えなければ生活にも使えない意味のないモノばかりですし、それは私自身がよく分かっているつもりです」


「……」

「それがどうかしましたか? もしかして、私がそのリナリーという女性が光魔法を使えるからと興味を持ったと思いましたか?」


 そう言う王子の声はどことなく冷たい。しかし、ゲームの中の王子は実際にそれで主人公に興味を持っているのだから、気にならないはずがない。


「……」

「なぜあなたはそこまで自分に対して自信がないのでしょうか。君がたくさんの努力をしてきた事は私だけでなくステラや……君の弟であるギルバートも知るところなのですが」


 ――ギルバートを言う前に少し間があったわね。


「ふふ」


 それに気がつくと、ちょっと笑えてしまう。


「何がおかしいのですか?」

「え、あ。ごめんなさい」

「いえ、いいです。悲しい顔をされるよりも、笑っている顔の方が良いですから」

「……」


 こういった事をサラリと言える辺り、本当にずるいと思う。


「しかし、いくら弟は言えあまり仲が良すぎるのも考えモノですね」

「……」


 ――それって。


「ひょっとして妬いているのですか?」

「……悪いですか」


 そう言って拗ねる様子を見せる王子はゲームの中で見る事は出来なかったから、ものすごく新鮮だ。


 ――うっ、かっこいいのにかわいいとか。


 ゲームのスティアート王子とは全然違うかも知れないけど、私は今の王子をいつの間にか好きになっていた。


 ――でも、主人公が逆ハーレムを狙っているのなら、何かアクションを起こしてきそうね。


 私が王子の婚約者だという事は周知の事実だ。しかも、ゲームの設定と何ら変わりはない。


 ――変わっているところは王子の性格と私との関係、後は魔法や身体能力のレベルが段違いってところくらいよね。


 主人公が「魔王を倒すためのパーティを組むために逆ハーレムを狙っている」というのなら、話は違うけど。


 ――多分、そういう事じゃないでしょうね。


「レイチェル、また考え事ですか?」

「ごっ、ごめんなさい」

「せっかくの逢瀬です。そんな心配よりも、私の事を見てくれると嬉しいのですが」

「え、あっ……あの」


 王子は先程と同じような穏やかな笑顔を見せているのに、どことなく距離が近い様に感じる。


「これだけ近づけば私の事を意識してくれるだろうと思ったのですが」


 どことなく楽しそうな雰囲気を感じたけど、それ以上に王子の整った顔が至近距離にあって私の心臓は高鳴る。


「あっ、あのあの」

「ふふ、すみません。あまりにも可愛らしい反応だったもので」


 そう言って笑う王子に、私は思わず「もう!」と言って王子を引き離す。


「ははは。ですが、コレで少しは分かってくれましたか?」

「え?」

「私は君以外の女性を伴侶にするつもりはありません。ましてや側室を迎えるつもりもありません。それは知っていて欲しい」

「はっ、はい……」


 王子の眼差しは真剣そのもので、その青い眼に思わず心を奪われそうになる。


「分かってくれればそれでいいです」


 先程の雰囲気とは打って変わって、王子は「早く食べてしまいましょう」と笑顔で言って私も王子に倣って一緒に昼食を食べた――。


◆    ◆    ◆    ◆   ◆


「……」


 そういえば、私はまだ入学して一ヶ月も経っていないにも関わらず主人公はラファエルと仲が良さそうだった。

 しかも、ライア様の話では二人は昔からの知り合いだったという事は容易に想像が出来る。


 ――でも、攻略をし始めるのって普通は学園に入学してから……。


「あ」


 そこで私はハッとした。なぜなら、魔法学園に入学する前でも攻略対象の親愛度を上げる方法が実は「一つ」だけあった事を思い出したから。

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