第4話
「……」
入学式が終わって次の日という事もあって、授業はほとんど最初の方を触ったぐらいで、後は授業の進め方を説明……という感じだった。
――分かってはいたけど、最初の方は小さい頃に独学で知っているモノがほとんどだったわね。
スティアート王子とギルバートは、私が予想した通り席も隣だったのだけど……なんでギルバートが勝ち誇っている様子だったのかは未だに謎である。
そして、昼休みに宰相の息子であるラファエルと主人公らしき女子生徒を廊下で見た。
――後ろ姿しか見えなかったけど、あのこの世界では珍しい「黒髪」は主人公しかいないと思うし。
しかし、そうなると色々と奇妙だとは思う。
なぜなら、本来主人公が各攻略キャラクターと知り合うのは入学式以降のはずだからだ。
――確かに「小さい頃に助けられて」っていうキャラクターもいたけど。
それでも、お互い「名前も知らない幼い頃の記憶」という感じで、決して「面識」というところまではいかなかったはずだ。
「うーん?」
色々と腑に落ちないところはあったけど、寮まで帰って一日目が終了……とはならなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
学校から帰った私は、ふと「昨日と雰囲気が違う?」と思った。
ただ「なぜ?」と聞かれても明確に説明が出来ない。とりあえず「そんな感じがする」としか言いようがないのだ。
――これも魔法のレベルが上がったかしらね。
魔法学園に入学すれば、普通と比べて比較的簡単に自分のレベルやステータスを知る事が出来る。
――自分を知る事で生徒のモチベーションを上げるって言う意味もあるらしいけど。
中にはそれを勘違いして「自分はこれだけ強いんだ!」と言う子供みたいな人間もいるらしい。
ちなみに、私はまだ調べていない。
入学したばかりという事もあるけど、どちらかというと「今の自分のレベルが魔王を倒すのに全然足りていなかったらどうしよう」という気持ちの方が大きかった……。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「ただいま、ユリア」
出迎えたユリアがあまり落ち着かない様子が気になってはいたけど、あえて私は何も聞かなかった。
多分「もし、私に何か言いたい事があったらユリアなら言ってくれるだろう」という気持ちがあったし、そもそもユリアはいつもそうしている。
「あの、お嬢様。お疲れのところ申し訳ありませんが」
この時もそうだった。
「お嬢様にお客様です」
「え? お客様?」
「はい、宰相の奥様です」
「宰相の……」
宰相の息子である「ラファエル」が一方的にスティアート王子を嫌っているのは「ことある毎に宰相の奥様が王子とラファエルを比べていた」という事が原因だ。
そもそも、この母親はラファエルの本当の母親ではなかった。ちなみに、本当の母親はラファエルが小さい頃に亡くなっている。
つまり、今の奥様は後妻だった。
しかし、幼いラファエルにとって彼女は実の母親と変わらない存在だった様だ。
――そんな彼女に認められたくてラファエルは色々と頑張るのよね。
それでも王子はラファエルの努力の上を行く結果を残す。その結果が、今の二人の関係だ。
――きっとラファエルは「王子は天才なんだ」と思っているでしょうね。
でも、私は知っている。
王子は決して「天才」なんかではなく、ただの「負けず嫌い」なだけだという事を。
私が既に出来ている魔法を自分が出来ないと分かった時は、次に会うまでに出来る様になっていたのにはかなり驚いた。
――あの魔法は一朝一夕で出来るモノじゃないわ。それに……。
実はステラ様から「お兄様はかなりの負けず嫌いなんです」と教えてもらい「そのためにものすごく努力をしている」という事も聞いている。
「でも、努力している姿は見せたくないみたいで」
そう言ってステラ様は苦笑いを見せていた。どうやら王子は私に「隠れて練習している事」を教えたくなかったらしい。
「お兄様はレイチェル様に格好いいところを見せたいみたいです」
そんな事を教えられて、何も感じない私ではない。それこそ「かわいい」とか「愛おしい」とかその場に王子はいなかったのに、そんな気持ちが溢れていた。
――でも、人前で努力している姿を見せないからこそ。
ラファエルの様に「天才」だと感じて距離を置く人たちがいるのも少なからずいるという事なのだろう。
結局のところ、ラファエルルートでは最終的にこの母親と決別し、王子と再び仲良くなっている。
――そもそも、私。この奥様って苦手なのよねぇ。
ラファエルルートでは頻繁に登場するキャラクターという事もあって、かなりの美人ではあるし、片手で数える程度ではあるけど面識もある。
「こちらのお部屋でお待ちです」
「ありがとう」
ユリアに案内された部屋を前に、私は小さく深呼吸をする。
パッと見た感じや話した印象は「人当たりの良い女性」なのだけど、どうにも気を許せない相手だ。
なぜなら、宰相の奥様『ライア・オーシャン』は黒い噂の絶えない事で有名な人物だったからである――。
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