第3話
「おはようございます。お嬢様」
「ん、おはよう。ユリア」
次の日。二人に言われた通り、早めに休んだ。
そして、この寮では使用人を一人連れて来る事が出来、私はユリアを指名した。
「私以外の人を指名したらどうしょうかと思いました」
なんて言っていたけど、どことなく嬉しそうだったのは私の見間違いではないだろう。
「お気分はどうですか」
「うん、大丈夫。早めに休んだのが良かったみたい」
そう言って笑うと、ユリアは「それは良かったです」と笑顔を見せた。
「そういえば、今日はスティアート殿下とギルバート様がこちらまでお迎えに来るそうです」
「あら、そうなの?」
「はい、お二人も昨日のお嬢様の様子を相当心配されていた様ですので」
「そっ、それは……」
――もの凄く申し訳ない。
そう思いつつ……。
「それじゃあ早めに準備しておかないとね」
「お手伝い致します」
こうして私たちは早速準備に取りかかった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「おはよう。レイチェル」
「おはよう。姉さん」
「おっ、おはよう」
寮まで迎えに来てくれた二人を見て、私はなぜか不思議に思った。なぜなら、今までは王子がギルバートを牽制している印象が強かったけど……。
――今日は……なんか、二人揃ってお互いを牽制している? それに、なんだか二人とも疲れているような。
「どっ、どうしたの? 二人とも」
「いや、何でもないよ。姉さん」
「ああ、昨日ちょっと予想外な事があっただけですよ」
王子はそう言って頭を押さえる。
「?」
よく分からず首をひねっていると、ギルバートが「姉さん」とコソッと耳打ちをしてきた。
「実は、僕と王子。同じ寮だったみたい、しかも隣の部屋」
「え!」
思わず声を上げてしまうと、王子は小さく「はぁ」とため息をつく。
「同じクラスという事は分かっていたから寮も同じだろうとは思っていました。ですが、まさか隣の部屋だったとは」
「僕もまさかですよ」
そう言ってお互いにため息をつく。
「はははは……」
どうやら学園の出席順番はファミリーネーム順になっているらしく「アクア」と「アルムス」では確かに近くになる可能性はかなり高い。
――でも、まさか隣になるなんてね……って、ちょっと待って。クラスも一緒って事は、席も隣になる可能性があるって事よね?
今から教室に向かうところではあるが、その可能性は限りなく高いだろう。
――あれ、そういえば。
ゲームの中で、主人公と攻略対象のキャラクターとレイチェルは全員同じクラスだったのだけど、昨日確認した時点では同じクラスに主人公の名前はなかった。
――それどころか宰相の息子も騎士団長の息子の名前もなかったわね。他のクラスって事なのかしら。
宰相の息子の名前は『ラファエル・オーシャン』だったはずだ。
そして、設定の上では王子とは「幼馴染み」となっているけど、実際のところ。二人の仲が良かったのは幼少期の頃だけ。
しかも、私が婚約者になった頃にはすでにラファエルの方から一方的に距離を置くようになっている。
もちろん、そうなった理由があるのだけどそれは「家庭環境の変化」が大きな要因だ。
――いや、そもそも。
主人公を含めた主要キャラクター全員が同じクラスという事の方がおかしい話なのだけど。
――でも、同じクラスの方がストーリー的には展開しやすいって事なのかしら。
「姉さん? どうしたの?」
「え?」
「もうすぐ教室に着きますよ」
「あ、ごっ。ごめんなさい、少しボーッとしちゃっていたみたい」
「大丈夫? 昨日ちゃんと休めた?」
「ええ、大丈夫よ」
なんだかんだ考え事をしている内に、教室の前まで来ていた様だ。
――そういえば。
試験会場で「光魔法を使う庶民がいる」とちょっと騒ぎになっていたのだけど、王子はあまり興味を示していなかった。
――ゲームではその時「主人公の存在を知って興味を持った」と言った描写があったのに。
ところどころでゲームのストーリーとは相違が出始めている。
――でも、それって決して私が魔王を倒そうとしている事が関係しているワケじゃないわよね。
確かに、この世界はゲームの舞台になった世界だと思われる。でも、その通りに進むとは限らない。
「……」
――これからもストーリーと変わってくる点が出てくるかも知れないわね。
そんな事を考えながらふと王子の方を見ると、視線に気がついた王子が私の方を見て小さく笑顔を見せる。
「体調が悪ければすぐに言うと良いですよ」
「そうだよ」
「ありがとう。でも、大丈夫。王子もありがとうございます」
そう言うと、二人はまた笑顔を見せる。
――うぅ、笑顔がまぶしい。
さすが恋愛ゲームの攻略キャラクターである二人だ。
「どうしました?」
「やっぱり体調が優れない?」
「いっ、いや。大丈夫です。その、私にはまぶしすぎて……」
『?』
二人は不思議そうな顔をしていたけど、ゲームでは主人公だけに見せていた貴重な笑顔があまりにもまぶしすぎて、私は思わず視線をしたに向けるしかなかった。
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