第2話
「レイチェル。入学おめでとう」
「王子もおめでとうございます」
「ああ、後。ギルバートもおめでとう」
「俺は後付けですか」
入学式の日。スティアート王子は笑顔で私たちを出迎えた……けど、ダンジョン巡りを一緒にする様になってから、どことなく王子はギルバートを警戒している様に思う。
――コレが主人公だったら、警戒して然るべきかも知れないけど。
しかし、私とギルバートは義理とは言え「
「ステラは残念そうにしていたが、彼女は来年入学する予定だからな」
「そうですね。残念です」
ステラ様は私たちの一つ下だ。
「なぜか僕は彼女にも嫌われている様に思うのですが……」
「ステラは嫌っているのではなく、牽制しているだけだ。ちなみに、たまに私に対しても牽制する」
そう言いつつ、王子はどことなく切なそうにため息をもらす。
「……」
――結局、入学しても王子に大きな変化はなかったわね。
それが良い事なのか悪い事なのかは分からない。でも、クールで冷たい印象の強いゲームのスティアート王子よりは、今の笑顔が印象的な王子の方が良い。
――原作ゲームのファンが見たら卒倒するかしら。
「それより、そろそろ入らない?」
「そっ、そうね」
「席は決まっていない様だ。レイチェルは私の隣で」
「じゃあ、僕はその隣で」
ギルバートがサラリと言った言葉に王子の目が光り、ギルバートはそれに気がついているのかいないのか……素知らぬ顔をして私の空いている席に座る。
――全く。
思わずため息をつきそうなるけど、ゲームの中ではありえない光景だったから、微笑ましくも見えてしまう。
「……」
そうこうしている内に入学式が始まった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ダンジョン巡りをして身体強化をして……あっという間に時間が過ぎた。
私自身、魔法も身体のレベルもなかなかなモノになったと思っている。
――自画自賛ではあると思うけど。
少なくとも、ゲームの中のレイチェルよりは強いはずだ。
――ここからが勝負ね。
この魔法学園は三年制の全寮制だ。
そして、ゲームの中では一年の十二ヶ月を各月「前半」と「後半」で分けられている。
プレイヤーはその前半と後半で「魔法」と「身体強化」のどちらかを選び、レベルを上げていく。
――そして、四ヶ月が過ぎた頃に最初の「試験」が行われるのよね。
もちろん、そこで良い成績を修める事に越したことはないけど、別に悪い成績でもゲームオーバーにはならない。
――どの「試験」でも悪い成績を出してもゲームオーバーにはならないのだけど、ダンジョン巡りにしろ魔王戦にしろ「戦闘」で負ければゲームオーバー、もしくはバッドエンドに直行なのよね。
ちなみに、試験で悪い成績を取ると、得られるレベル上げに必要な経験値があまり得られないだけである。
――コレが後々響くのよね。
そして、最初の「試験」が終了したところで「長期休暇」に入り、一度自宅に戻る事が出来、そのタイミングで『ダンジョン巡り』が出来る様になる。
――ここでどれだけレベルが上げられるかが勝負なのよね。
実は「長期休暇」の時二ヶ月だけ各週になっていて、レベルを上げられていないプレイヤーに対する救済処置になっているのだ。
――しかも、休めば通常よりも回復するし。
だから、私はいつもこの「長期休暇が勝負」と言わんばかりにレベル上げをしていた。
――ただ、最後の年は少しだけ余裕が出来て恋愛攻略対象とデートもしていたかしら。
他のゲームを色々とプレイしていて「なんで三年もあるのかしら?」と最初は不思議に思っていた。
なぜなら、こういった「恋愛」のゲームでは大抵の場合、期間は『一年』となっている事が多いのだ。
――しかも、大体主人公は『転校生』って言う形が多いのよね。
でも、このゲームをプレイしてみて分かったのは「三年あってもちょっとでも失敗すると、クリアが出来ない」という事。
――それこそ「最初はゲーム本編をクリアする事だけを目標にして、二巡目に恋愛攻略に乗り出した方がいい」って割り切らないといけないくらい。
ただ、ダンジョン巡りで負けても、一度だけ「コンティニュー」が使えるのだが、魔王戦ではそれがない。
そういった「難しさ」も相まって恋愛ゲームでは珍しい攻略サイトや攻略本まで出ている。
――ゲームの中だとあっという間の三年間だけど……。
今の私はゲームの世界で生きている人間だ。今日からこの魔法学園で生活をする。
――そういえば、今日が入学式って事は、主人公もこの入学式に出ているのよね。
ふとそんな事を考えた。
――あれ、でも待って。確か、入学式で主人公は……そうだ。主人公は遅刻してしまい、そこで出会うのは……。
名前はハッキリと書かれていない『フードの男』と表記されていたけど、多分ギルバートのはずだ。しかし、そのギルバートは今。私の隣にいる。
――この場合、どうなるのかしら。
入学式が終わるまで私は、その事をずっと悶々と考え続けていた。
そのせいか、入学式の後。
私の両隣に座っていた王子とギルバートから心配されてしまい、早めに寮の部屋で休むよう言われた。
「あの、ありがとうございました。送ってもらって」
「気にしなくていい」
「ちゃんと休みなよ。姉さん」
しかも、二人に私がこれから生活をする寮の前まで送ってもらってしまい、この時の私は正直、あまりの申し訳なさからこの時の二人の表情を見る事が出来なかった。
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