第6章 いざ、学園生活開始!

第1話


 そうしてあっという間に日々が過ぎ、私とギルバート、スティアート王子は魔法学園へと入学する日が近づいて来た。


「姉さん、もしかして緊張している?」

「え、ええ」


 実は、アクア王国では魔法学園に入学するためには「入学試験」の様なモノが行われている。


「大丈夫。姉さんは緊張していても、不意打ちでも魔法が使えるくらいだから」


 元気付けるように笑顔でギルバートは答える。実は「魔法のレベルを知るため」のモノではなく「魔法が使えるか」という事を調べるためのモノだった。


 ――ゲームだとこの「試験」はこれから先に行われるテストの説明も兼ねた「チャート」としてゲームの最初の関門だったわね。


 ただ、ゲームの場合で上手く出来なくても「チャート」という事もあって、特に問題はない。


 ――でも、実際に試験を受けてみて分かったけど。


 この試験で見ていたのは「魔法が使えるか」という事だけだった。だからこそ、ギルバートは私にそう言ったのだろう。


 ――でも、あの時の私はむしろ「悪目立ちしたくない」って気持ちの方が大きかったわね。


 それでもやはり「試験結果の発表前」というのは、分かりきっていたとしても緊張するモノだ。


 ちなみにゲームを一度でもプレイした事のある人は「レイチェルが入学出来たのは、親のコネか王子の婚約者だから」と思っているだろう。

 それくらいにレイチェルの魔法のレベルはひどい。


 確かに、彼女はこの国の魔法研究の第一人者である人物の娘で、なおかつ王子の婚約者だ。

 そう思われても何ら不思議ではない。

 でも、今回実際に試験を受けてみて「いくら魔法学園で劣等生だったレイチェルでも親のコネが必要な程でもない」という事が分かった。


 それくらいこの試験は「魔法が使える人」にとっては簡単なモノで、初歩中の初歩の話だったのだ。


 しかし、こういった簡単なモノでも行う必要がある。


 なぜなら、この国では「魔法学園に入学する事が貴族である事の証」の様な風潮があったからだ。


 もちろん、そうなってしまった理由は当然ある。


 実はその昔、貴族の中に自分の子供が「魔法を使う事が出来ない」と分かっていながら、魔法学園の人間に賄賂を渡して裏口から入学させるという事がかなりあったらしい。


 それくらい「魔法学園に入学する」という事は、貴族にとっては大事なステータスだったのだけど。


 ――でも、授業が始まればすぐにボロが出そうなモノよね。


 その辺りはかなり疑問だったけど、ゲームの中のレイチェルやステラ様の大事なモノを投げ捨てていた貴族たちを見ていると、むしろ「どんな卑怯な手を使ってでも!」という雰囲気があってもおかしくはない。


 ――これぞ貴族社会の闇って事かしら。


 そして、その標的になりやすいのが「魔法が使えるのは貴族」という中で「魔法を使える庶民」または「貴族の中でも下級に区別される家の子供」というところなのだろう。


 それを踏まえて考えると、公爵令嬢である私はまだその心配はなさそうだ。


 ――その代わりに別の事を心配した方が良いかも知れないわね。


「あ。そういえば、姉さんに話しかけてきた人が結構いたけど」

「ええ。でも、私は誰とも知り合いではないわ。あなたも知っての通り、私は基本的に家にいたし、その他の時間はダンジョン巡りをしていたから」


 私がそう言うと、ギルバートも「そうだよね」と答えた。


「姉さんはお茶会も出ていないし、おかしいとは思っていた」


 そう、実は王子だけでなく国王陛下や王妃様の意向もあり、十歳で王子との婚約を公表した後もお茶会や舞踏会などの公の場に私はあまり出ていない。


 ――つまり、あの試験会場の場が私と接触するチャンスと捕らえたワケね。


 そう考えると、あれだけたくさん人に声をかけられた事にも納得が出来た。


 ――あれ、そういえば。


 ここに来て私はふと「攻略対象で王子と幼馴染みであるはずの宰相の息子と会っていない」という事に気がついた。

 もちろん「王子の婚約者になりたくない」という気持ちはあったけど、その一つの理由として「攻略対象たちと顔なじみになりたくない」というところもあった。


 しかし、婚約者になった後も会っていないし、紹介もされていない。


「……」

「姉さん?」


 ――でも待って。確か、ゲームの中の王子は宰相の息子であるラファエルを嫌っていなかったけど、ラファエルは王子を一方的に嫌っていた様な?


 それを考えると……。


「うーん」

「ねっ、姉さん。どうしたの? そんなに考え込んで」

「え、あ。ごめんなさい」

「いや、どうしたの? そんなに試験結果が不安?」


 私がずっと考え込んでいるのが気になったのか、ギルバートは心配そうに私を見る。


「ううん、そうじゃないの。ちょっと気になる事があってね」

「……それって、子供の時に話してくれた話に関係ある?」


 不意に聞かれた言葉に、私は思わずドキリとした。

 実は、私がギルバートに話したのは「将来、魔王が復活する」という事と「魔王を倒さないと世界が滅びてしまうから、そのために色々な準備をしている」という二つだけ。


 つまり「私が前世の記憶を持っている転生者」という事は話していない。


 ――むしろ魔王復活の話を信じてくれただけでも良かった。


 それだけで随分と動くやすくなる……けど、実は「私一人で」という事は伝えていない。


 ――この話だけでも心配させちゃったし。


「姉さん?」

「いいえ」


 そう言い切ったタイミングで、ユリアが軽くノックをした後「失礼致します」と言って、合格の証でもある「魔法学園入学のご案内」と書かれた手紙を二つ手に持って現れた――。

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