第5話


 ――もっとも、私にその才能があればいいのだけど。


 実際のところ、その時からユリアから習った魔法も結構ある。それくらい、ユリアの魔法センスは凄まじかった。

 どうやら魔法に「才能」はいらなくても「センス」というモノはあるらしい。


「でも、魔法騎士にも王宮に仕える事もなく、魔法学園を卒業した後。私の家は没落してしまいました」


 その理由は「ユリアのご両親が亡くなってしまったから」らしい。


「両親は馬車の事故で亡くなってしまいました。本来であれば、娘である私が領地を治めなくてはいけません。ですが……」


 そのタイミングで領地拡大をしようとする目論む他の貴族に狙われた。

 しかも、私は「ユリアの才能はすごい」と思ったけど、その当時の人たちにはそう思われず……。


「私は領地を……住む場所を奪われました」


 そんな時にユリアに手を差し出したのが、お父様だった。


「旦那様は学園に通っていた時から『私には才能がある』とおっしゃって下さいました」

「!」

「ええ。ですので、先程お嬢様にも同じ事を言われて驚いてしまいました」


 そう言いつつユリアは笑って「すみません」と頭を下げる。


「私がどこにも行く場所がないと知ると、使用人として来ないかとお誘い下さいました」

「……そうだったの」

「奥様とは貴族だった頃にあいさつをした程度で、直接の面識はありませんでしたが、右も左も分からない私に本当に良くして頂きました。感謝してもし尽くせません」

「……ねぇ」


 ここでふと私はある疑問が浮かんだ。


「私の専属のメイドになったのって、もしかしてお母様から言われて?」


 そう尋ねると、ユリアは「そう言えば、そうですね」と答えた。


 ――なるほど、そういう事だったのね。


 この時になってようやく私はお母様の意図が分かった様な気がした――。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「さて、それじゃあ」


 私は木で作られた剣を片手にユリアが動かす鎧へ剣を振りかぶりながらと突っ込む。


 ――まさか前世の部活動がこんなところで役に立つなんてね!


 しかし、いくら私が前世で剣を振っていたとしても、それはあくまで部活動の一環。

 それがまさかこんな形で使えるとは思えなかった。

 でも、剣を大振りしても避けられるのはもはや織り込み済みで考えなくてはならない。


 だからこそ、最初は魔法で相手の動きを封じるのが一般的な闘い方とされている。


 ――そもそも、そういった闘い方が出来るのも役割分担が出来るからこそよね。


 たまに一人でダンジョンに潜る事もあるが、そういった時になってそれをひしひしと感じる。

 しかし、私は魔王を「一人」で倒さなければならない。

 つまり、全ての役割を担わないといけない。その上、標的は私一人。相手からしてみれば、簡単に狙える。


 ――しかも今は「身体強化」をメインにしているから、出来れば魔法は使いたくないのよね。


 コレは私の勝手な判断だけど、そうしなければ身体レベルを上げるのは難しい。

実はそれくらい身体レベルと魔法レベルを一緒に上げるのは難しいのだ。


 私も全く剣を持った事もないか弱い女の子ではないとは言え、騎士たちとは比べるのもおこがましいほど身体レベルはまだまだだ。


「あ!」


 剣を避けられて切り返しで失敗してしまうと、すぐに劣勢に立たされてしまう。

 その証拠に、私は前屈みの形で頭に鎧が持っていた剣が寸止めで止められていた。


「はぁ、まだまだ特訓が必要ね」


 私がそう呟いていると……。


「姉さん!」


 呆然と様子を見ていたギルバートが来てものすごく心配され、ユリアには「ちゃんと加減して下さい」と怒っていた。


 ――うーん、コレは。これからの事も考えると。


 そんなギルバートの姿を見て「確かに、令嬢のやる事ではないわよね」と心配させた事に申し訳なさを感じつつ「やっぱりギルバートにはちゃんと話しておくべきかしら……」とそう思わずにはいられなかった。

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