第4話
「……」
今振り返ってみると、あの時も我ながらかなり強引だったと自分でも思っている。
だけど、それ以上に「自分の近くにいる人の事をもっと知りたかった」という気持ちの方が強かったのだ。
「どうぞ座って」
「そっ、そんな! いけません。私は立ったままで」
「私があなたの事をもっと知りたいだけなの。あなたの話を聞いているのに、あなたが立ったままなのはこちらが申し訳ないわ」
私がそう言うと、ユリアは「そっ、それでは」と申し訳なさそうに言いつつ、それでもまだ迷いがあったのか座るまでに時間がかかりつつ着席した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そうして聞いたユリアの話は、なかなかに興味深いモノだった。
ただ、最初はやはり遠慮が見られたけど、私が作った『クッキー』を勧めてお茶を始めると、ようやくその緊張もほぐれた様に見えた。
――やっぱりこういった時のお菓子の効果は絶大ね。
そう思うと、思わず笑みがこぼれてしまう。
「あの……実は、私は元貴族なんです」
紅茶が注がれたカップをまじまじと見て最初に言った言葉がそれだった。
ユリア曰く、ユリアの実家の爵位は「伯爵」だったらしい。
ただ、それは私が生まれるよりも前の話。その当時住んでいた家は既になく、ご両親も既に亡くなっているとの事。
「辺境の小さな領地を治める伯爵家の娘として私は生まれました。そして、運が良い事に魔法の才能に恵まれ、私は魔法学園に通いました」
ユリアの魔法の属性は私と同じ風属性の魔法。
「ですが、その当時の私は目指している様な明確な目標もなく、ただただ毎日を過ごしていただけでした。だから、とても『魔法学園を卒業しました』と胸を張っては言えないのですよ」
そう言って笑うユリアの表情は、どこか痛々しい。
「そんな事ないわ。だってあなたが魔法学園に通っていたのは事実でしょう?」
「はい。ですが、私の場合はただ『通っていただけ』です。お嬢様の様に幼い頃に特訓していれば、未来も変わったかも知れませんが、私の魔法レベルは『何とか卒業出来る』程度でした」
そして「それに」とユリアはさらに言葉を続ける。
「私はそもそも魔法のレベルが低いのか、魔法量が少ない様なのです」
ユリアがそう言いつつ魔法識別装置に手をかざすと――。
「!」
装置の下から魔法陣が出現した。
しかし、その後の変化は大きくなく、クマが立ち上がって数歩動いただけ。
「……」
魔法を使う事の出来る人間はコレを見ると「この程度か」と思ったに違いない。
それがユリア自身も分かっていたのか、ユリアは少しだけ肩を落としつつ「コレで分かりましたか」と言わんばかりに私の方を見る。
「すっ、すごいわ!」
「え」
「だってあなた。コレだけの少量の魔法量の消費でクマを動かせるなんて!」
しかし、私には違って見えていた。
なぜなら、私は「魔王との闘いに勝つ」という事を最終目的としていて、そのためには「魔法量の消費」は大事な項目の一つだったからだ。
――魔王戦になる前に体力も魔法量の消費も出来るだけ避けたいし。
もちろん「道具の消費」を避けたいというのもある。そもそもダンジョンに持って行けるアイテムの数は限られているのだ。
そもそも魔法レベルが上がれば魔法量を保持出来る量も増える。
要するに、魔法レベルが上がれば魔法を使うため必要な魔力も貯めておける容器が大きくなる様な感じだ。
――それでも一瞬が命取りになる闘いだから。
それを考えると、ユリアの魔法陣は画期的だった。
「ねぇ、今の魔法陣。どの本にも書かれていないんだけど」
「え、はい。わっ、私が考えたので」
迫るように言った私に圧倒されつつも、ユリアはそう答える。
「え、じゃあ。コレはあなた独自のモノ?」
「はっ、はい」
その一言に私は驚いた。なぜなら、私はゲームの中で使われていたモノしかこの世界には『魔法』として存在していないと思っていたからだ。
――でも、コレはチャンスだわ。
私は「これから魔法の特訓や勉強をすれば、もっと消費の良い魔法を作れる可能性がある」という事をユリアに教えてもらえた様に感じた。
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