第3話
ユリアの態度は普段と全然違うという事はすぐに分かった。でも、自分自身に驚いている彼女に対して強い物言いは逆に彼女を強ばらせてしまう。
「いえ、気にしないで」
だから、私は出来る限り穏やかな顔と声で彼女を落ち着かせる様に言い聞かせる様に言った。
「……」
――部屋を出て行かれたらどうしようと思ったけど、留まってくれて良かった。
ただ「お嬢様を置いていくわけにはいかない」という気持ちから出て行けなかったのかだけなのかも知れないけど。
「……」
きっと彼女にも色々な「過去」や「事情」というモノがあったのだろう。それこそ、ゲームの中で描かれていない「話」が。
――こういう状況を目の当たりにすると、本当に「あ、この世界で生きているんだな」って実感するわね。
ゲームをプレイしている立場だと、どうしても「客観的」に物事を見てしまうところがある。
だけど、今は違う。
彼女だってこの世界でずっと生きていて、私もこの世界で生きている人間なのだ。
――私は自分ために「魔法の特訓」を早くしてどうにかしようと思っているけど、もし魔王を倒せずに物語の結末通りの辿った時の事も……考えないと。この世界に生きているのはゲームの中の登場人物だけじゃないもの。
そう思いつつユリアの方へ視線を向ける。
この時点で私はまだ王子との婚約はしていない。むしろ「なんとか婚約回避出来ないか」と考え始めたくらいのタイミングだ。
でも、今にして思えば、この時から「無理に婚約回避しなくてもいいのでは?」と心のどこかで考えていたのかも知れない。
「ねぇ」
「はっ、はい」
「出来れば、ユリアの事。もっと教えてくれないかしら」
「え。わっ、私の事なんて聞いても何も……それに、お嬢様は今」
驚きと困惑の表情を見せつつ、ユリアはチラッと魔法の参考書が広がっている机に視線を向ける。
――ああ、私の心配をしてくれているのね。
それと同時に「聞かないで欲しい」と言っている様にも思えたけど、私としてもここで引くつもりはない。
――多分、ここで聞かないと。これから先、ユリアが自分の話してくれる機会なんてないだろうし。
なぜだろう、この時の私は咄嗟にそう思ったのだ。
「だっ、大丈夫よ。今はその、ユリアの察しているとおり。行き詰まっていてね」
「……」
「それに、ちょうどこの間あなたが褒めてくれた『クッキー』もあるの。だから、お茶を……ね。どう……かしら」
おずおずと尋ねると、今度はキョトンとした顔をしている。
――あまり表情を表に出さない印象だったけど、意外に表情豊かな人なのかも知れないわね。
そう思うほど、たった数分の間にユリアの印象は変わったように感じていた。
「あ、あの。わっ、私でよろしければ」
私はユリアの手を握ったままだったからなのか、ユリアは内心アワアワしていただろうけど、それを表に出さない様にしつつ控えめに小さくそう呟いて頷いた。
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