第5章 身体強化も忘れずに
第1話
「……よし!」
「姉さん、コレは?」
ある日の朝。私はある準備をしていたのだけど、ギルバートは不思議そうに私の方を見ていた。
「姉さん、コレは?」
「え? 身体レベルを上げる特訓の準備よ」
準備をしていたサラリと私は答えたけど、その答えを聞いてもギルバートはキョトンとしている。
――むしろ「何を言っているんだろう」と言いたそうな顔よね。
それもそのはず、この世界では「魔法レベル」は一般的によく知されているけど「身体レベル」はあまり知られていないのだ。
――でも確かに、魔法のレベルを上げれば確かに身体能力も上がった様に感じるからね。
ただ、実際は違う。魔法のレベルが上がっても身体レベルは上がっていない。低いままになっている身体レベルを高くなった魔法レベルが補っているだけなのだ。
――感覚としては、早い魔法や打撃の攻撃が「見える」けど「反応は出来ない」という感じなのよね。
要するに「攻撃がくる」と分かっていても、反応が出来ない。出来ていないという事だ。体感して見ると分かるが、これほどもどかしい事はない。
――ここの世界で魔法を使える人はコレを「攻撃に怯えて」って思っているけど、実際は全然違うのよね。
普通なら戦闘を重ねていけば身体レベルも徐々にではあるが上がる。しかし、魔王と闘う事を視野に入れるとやはり「身体強化」は必須項目だろう。
なぜなら、魔王に光魔法以外の魔法の効果はあまりなく、むしろ打撃攻撃の方が大ダメージになるからだ。
――その上、魔王の攻撃は反則級に早い上に当たったらダメージが凄まじいのよね。
色々なゲームをプレイしてきた私でも、あのゲームの魔王の存在は反則級だった。
――さすがに一度でも当たれば致命傷になりかねないのに「分かってはいても反応は出来ません」じゃ話にならないから。
私はそんな理不尽魔王に、単独で立ち向かわなければならない。
――本当は、みんなとパーティを組めたらいいんだけど。
チラッとギルバートの方を見ると、ギルバートは私が持って来た道具に興味津々の様だ。
「……」
最初は私だけだったダンジョン巡りも、いつの間にか私だけでなく王子とステラ様、そしてここ最近はギルバートもダンジョンに赴いている。
――でも、今更だけど……これって、全くデートって感じがしないのよね。
王宮に着くと、いつも王子とステラ様が準備万端に私を待っていて、そのままダンジョンへ向かう……というのが、もはや私たちのデートの定番になっている。
――いや、デートに義理の弟と妹も一緒にいるって。
ふと考えると、やはりおかしい様に感じる。それこそ「婚約者として、コレは正しいのかしら?」と疑問に思ってしまう事があるほどだ。
――でも、スティアート王子は「気にしなくて良い。むしろ、普通の貴族令嬢では体験出来ない事を体験させてもらえて嬉しいとすら思っている」って言っているのよね。
貴族令嬢となれば「一緒にお茶を楽しむ」とか「買い物に出かける」というのが普通だと考えれば、確かに「体験出来ない事を体験出来ている」と言える。
しかし、それを言うなら「ダンジョンに王子を向かわせる」という事を普通であれば止めるはず……なのだけど、そこはもはや黙認。
ただそれは、王妃様が「どうぞ連れて行って!」と乗り気というのが一番の理由だろう。
――確か、王妃様は「未来が視える」って設定があったのよね。
でも、王妃様のその『未来視』とも『予言』とも言える言葉が公に出る事はあまりなかった。
王妃様曰く「未来は簡単に変わるモノだから」との事らしく、それ故に王妃様の言葉が全て当たるワケではない。
だから、貴族の中にはあまり王妃様の言葉を信じていない人間がいるのも事実だった。
ただ、そんな王妃様が「ダンジョンに行くのなら、この子も!」と言っているのには、多分「魔王復活」が関係しているのではないか……と私は密かに思っている。
「姉さん……あれだけダンジョンに行っているのに、さらに強くなってどうするの?」
このギルバートの指摘はもっともだろう。普通の王子の婚約者である私がここまで魔法も身体能力を上げる必要はない。
―それこそ、魔法騎士や王宮の騎士。魔導士を目指しているというのなら、私のしている事もギリギリ理解出来るのでしょうけど。
しかし、そういった人たちが本格的に学び始めるのはやはり魔法学園に入学してから後である。
――普通は「とにかく魔法学園に入学する事」だけを目標にしているから、こういった事は後回し。おろそかになるのよね。
ただ、それでは私の目的達成には遅すぎるのだ。
「姉さん?」
「ううん、なんでもない。ただ、私は王子に守られているだけのか弱い女の子でいるつもりはないだけよ」
「そっか」
ゲームの中の主人公は、プレイヤーによってレベルを上げられるのだけど、基本的に攻略対象たちから「守られる存在」だ。
「そうだね。確かに姉さんはただ守られているだけって……黙っているワケないね」
そう言ってギルバートはクスクスと笑う。こうして素直に笑えるようになったのは嬉しい事だけど。
――待って、あなたの中で「私」ってどんな存在なのよ。
その時はサラリとギルバートの言葉を聞き流したけど、ふとした瞬間に思い返してそう思った。
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