第5話
「姉さん」
「どうしたの? ギルバート」
そんな出来事から月日が流れ、私は十歳になっていた。
「姉さんって変わっているよね」
「何、突然」
ギルバートは最初でこそ敬語がなかなか抜けなかったけど、今では普通に私に話しかけてくれる。
「いつも魔法の本を読んでいるよね。しかも、ダンジョンにも行っているみたいだし」
「まぁ、そうね」
「僕、初めてお茶会に参加させてもらったけど、魔法も『習い始めたばかりで大変』って話があちらこちらから聞こえて」
そう、ギルバートはつい先日王宮で開かれたお茶会に参加した。
催された場所が王宮という事で、その時はどちらかというとギルバートのお茶会デビューというよりは、私の付き添いだ
「普通はそうでしょうね」
「そうなの?」
「大体は十歳頃から始めるのが普通らしいわよ」
「そうなんだ」
今まで自分と同じくらいの年の子供というと、私か王子……もしくはステラ様くらい知らなかったギルバートにとって時折聞こえてくる子供たちの話は驚きしかなかったのだろう。
――王子もステラ様もいつの間にか一緒に魔法の特訓をしているし。
最初はダンジョンに行く途中に現れる低レベルのモンスターを狩るところから始まり、その次にダンジョンに行くという工程を踏んでいた。
――いくらダンジョンに行けるレベルがあったとしても、その道中で何が起きるか分からないのが現実よね。
ゲームの中ではマップから行きたいダンジョンを選べば、すぐにその場所についていたのだけど、実際はそんな簡単な話じゃない。
ダンジョンに行く道中には当然の様にモンスターは現れるし、魔法力も体力も消耗する。
――このゲームの場合はそこが省略されているのよね。
ダンジョンに行く途中で得られる経験値は、低レベルのモンスターだからなのかあまり多くはないけど、一度も闘った事のない人間にとっては良い経験になる。
そうして私は王子の言いつけ通りの道具を持ちつつ、ダンジョンを巡り続け、一年程経った頃からは王子も一緒に行く様になった。
――私の知らないところで必死に努力していた……って、王子専属の執事が言っていたわね。
そして今ではステラ様も同行している。
しかも、ステラ様は「私も一緒に行きたい」と駄々をこねるのではなく「このレベルなら足を引っ張ることはない」というところまで特訓した上で王子に頼み込んだらしい。
――自分の正確な魔法のレベルを知るには詳しく調べないといけないけど、何となくの感覚で分かる事もあるのよね。
例えば「
――たまに私一人でダンジョンに行く事も出来ているから、現状は何も文句はないのよね。それにしても……王子ってあんなによく笑ったかしら。
私といる時の王子はいつも笑顔で、とてもゲームの中のスティアート王子と同一人物とは思えない程である。
――でも、コレも魔法学園に入学するときっと変わるのでしょうね。
今でこそ良好な関係ではあるけど、主人公に出会うとそれも変わってしまう可能性が高い。
私はイジメをするつもりなんて毛頭無いけど、王子の関心が私から主人公に関心を移してしまう可能性は否定が出来なかった。
――ただ、私には誓約書があるから最悪の事態になったとしても、家族には迷惑をかける事はないはず。
そして、この誓約書について知っているのはその場にいた私と王子とステラ様だけだ。
「姉さん」
「ん?」
「僕も魔法の特訓頑張れば着いて行ってもいいですか?」
「そうねぇ……」
ここ数年でギルバートも自分の意見を言えるようになっていた。とても良い傾向である。
――ギルバートはあの一件以降、私の後をよくくっついて魔法の特訓もしていたわよね。
それに関しては「君はもう少し姉離れをした方がいいと思いますよ」と珍しく王子がぎこちない笑顔でギルバートに言ったほどである。
――でも、本人には全然響いていないのよね。
ゲームの中でも「マイペース」だったけど、それはどうやら昔からだったようだ。その事も踏まえて考えると、家族からの命令は「絶対」だったのだろう。
「うん、それじゃあ私と一緒にダンジョンに行くまでの道から順を追って行きましょう」
そう言うと、ギルバートは「姉さんと一緒に?」と尋ねるので私は笑顔で「ええ一緒に」と答えると、ギルバートは「嬉しい」とさらに笑顔を見せるのだった。
こうして魔法を上達させたギルバートも後日一緒にダンジョンに行く事を王子に告げると「いいですよ」と言いつつ、どことなく残念そうな顔をしていた……様に思う。
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