第3話


「はぁ」


 そんなギルバートとの対面を終えた私だったけど、一ヶ月を過ぎても一向に仲良くなれる気配はない。


「お嬢様、どうされたのですか」

「え」

「お茶会に行って以降、ため息をつかれる事が増えたのでどうされたのかと」

「……そんなにかしら」

「はい」


 確かに、ここ最近はため息ばかりついている様な気がする。


 ――でも、それは色々と考え事をしているからで。


「お嬢様が何を悩まれているのか分かりませんが、よろしければ話してみませんか」

「……そうね。うん」


 今の私の悩みの種はギルバートの事だ。


 養子として我が家に来てすでに一ヶ月が経過しているけど、どうやら私だけでなく使用人たちにもオドオドした態度のままらしい


 ――これからの事を考えると、このままじゃいけないわよね。


「ギルバートの事で少しね」

「ギルバート様ですか」


 ユリアはギルバートの名前を出すと、少し考え込み始めた。


「どうかしたの?」

「あ、いえ」


 ――コレは話を続けていいって事よね?


 そう思いつつ私は話を続ける。


「確かに、ある日突然公爵家の養子になるのは驚いたとは思うわ。それにもし、以前の生活を気に入っていたのなら……と思うと、やっぱり無理強いはさせたくなくて」

「……」

「私としては、ギルバートともっと仲良くなりたい。せっかく家族になったのだから」

「……そうですね」


 いつもであればハッキリとモノを言うユリアだけど、この時はいつもと違いなぜか言いにくそうにしている。


「どうしたの?」

「実はギルバート様の事で少し気になる話を耳にしまして――」


 ユリアがそう言った瞬間「ギルバートの事が聞ける」と私はすぐに「教えて」と詰め寄った――。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「ギルバート」

「! レッ、レイチェル様」

「あなた、ここで何をしているの」

「コッ、コレは……その」


 ギルバートがいたのはお父様の部屋。

 しかし、この部屋に入る事が出来る人間はアルムス家の使用人でもそう多くない。


 ――私ですら片手で数える程度だもの。


 実の娘だけでなく、お母様もなかなかこの部屋には入らない。それくらいこの部屋にあるモノは重要で機密性の高いモノが多いのだ。


 しかし、そんな部屋にギルバートはいた。


 ――やっている事はともかく、そこは「さすが」と言いたい気分ね。


 ゲームの中のギルバートは授業に出る必要もないほど元々頭が良い。そして、なかなか魔法のレベルが上がらない主人公にアドバイスをする「アドバイザー」という存在も兼ねている。


 ――学園にいる時点でギルバートは自分の義理の姉が主人公をイジメているのを知っているのよね。


 だからなのか、彼が自分の正体を明かすのは終盤で、ある条件を満たせば彼をパーティーに加える事も可能だ。


 ――実は魔法担当とされている宰相の息子より使えるのよね。


 それはそれとして、どうして彼がこんなところにいたのか、それはアルムス家の前の家からの命令に従ったのが理由だ。


 ――まさか、ギルバートを使って我が家の物を盗ませていたなんてね。


 実はギルバートは我が家から見て遠縁である伯爵家のめかけの子だった。

 そして、その伯爵家は没落寸前だったのだが、ギルバートが養子に選ばれた。

 その理由は「頭の良さ」だったけど、その際に伯爵はお金をせびったらしい。


『実は最初に来た時。ギルバート様のお召し物が……そのあまりにも』


 ユリアの言葉から、ギルバートが伯爵家でどういった扱いを受けていたのか察しがついた。

 しかし、すでに正室の方は亡くなっておりギルバートの実の母親が伯爵夫人になっていたはずなのだけど。


「伯爵家にはすでに亡くなった正室の方ともうけた息子がいらっしゃいます。ですので、ギルバート様が後を継ぐ事は出来ません。つまり……」

「そういう事ね」


 要するにその伯爵家にとってギルバートは邪魔な存在だったのだ。


「そして今回ギルバート様は養子としてアルムス家に来ました。旦那様としては『頭の良さ』もそうですが、一番はギルバート様の保護だったのかも知れません」

「そうだったの」

「ただ、旦那様としては『手切れ金』として渡したのかも知れませんが」

「それだけで終わるとは思えないのね」


 そう言うと、ユリアは無言でゆっくりと頷いた。

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