第4章 義弟登場

第1話


 私『レイチェル・アルムス』は、この国の王子『スティアート・アクア』と婚約をした。


 ――でも、これを公表するのは十歳になった頃の予定で、それまではたまに王宮に遊びに行って周囲の貴族たちに『仲の良いお友達』という印象を植え付ける……と。


 一応、我が家はこの国に三つしかない『公爵家』という事もあるのでそこまで否定的な意見が出る可能性は低いが、諦めの悪い連中というのはどの世界にも存在するらしい。

 普通ならいくら諦めが悪くても、大体の人は相手が私という時点で引くらしいのだけど……。


 ――まぁ、どちらにしても王子自ら書いた誓約書には私と王子のサインがバッチリ入っているし、何かあったら最悪この話を持ち出せばいいだけの話よね。


 最初でこそ婚約を迫る周囲の声に疲弊していた王子にしかメリットのない話だったけど、今となっては私の方がメリットは大きい。

 ただ、結局のところ婚約してしまったので物語の流れとしてはそのままである。


 ――ああでも。


 ステラ様とはかなり良好……どころか彼女はかなり私に懐いてくれている様だ。


 ――前世では私にも弟がいたけど、妹はいなかったのよね。


 王子の腹違いのめかけの子ではあるけど、それはステラ様が悪いワケではない。それに、むしろ周囲からあまりいい顔をされていないステラ様を守りたいと思っている。


 ――そこは王子と意見が一致しているのよね。


 ちなみに、ゲームの中でスティアート王子のルートになると、ステラ様は主人公と友人になるのだが、そのきっかけは私のイジメだ。


 ――主人公をイジメているところにステラ様が来るのよね。


 そして、お互いレイチェルにイジメられている話をしていく内に二人は仲良くなるのである。


 ――その時のスチルがまた良いのよね。ベンチに噴水、花畑。最高じゃない。


 ちなみに、何度かある王子との逢瀬もこの場所だ。


 ――そのスチルはどれも美しいし、とてもいいのだけど……。


 レイチェルとなった今ではそういったのを見ると、浮気現場を見ている気持ちになってしまい、どことなく暗い気持ちになってしまう。


「でも、全部が同じというワケじゃないわ」


 そう、ゲームの中でもレイチェルは王子の婚約者ではあったが、完全にゲームのストーリー通りではない。

 ステラ様や誓約書の話だけではなく、私が王子の婚約者になった『理由』もゲームの中のレイチェルとは違う……はずだ。


 ――詳しい説明がなかったから「確実にこうだって」とは言えないけど。


 少なくとも「魔法や身体レベルを効率良く上げるためにダンジョンに行きたいけど、難しくて困っている」という話から「婚約すればダンジョンにも行きやすくなる」という理由で婚約はしていないだろう。


 ――でも、私としては時間のかかりそうな説得より、婚約の方が良かったのよね。


 実際のところ、魔法学園に通い始めるまでにどうにか王宮に勤めている一般的な騎士くらいの実力は身に付けておきたい。

 魔法も身体能力のレベルも。

 二つの事を同時に出来るほど自分が器用でない事くらいは自分自身がよく分かっているつもりだ。


 ――でも今は、魔法のレベルで低い身体能力のレベルをカバーするしかないわね。


 当然、今すぐにダンジョンに行くつもりは毛頭ない。まずは散歩がてらモンスターを狩るつもりだ。


 ――きっとそれも一人じゃダメなんでしょうね。


 基本的に貴族の外出には護衛がつくモノである。しかし、なぜ私がここまで「一人」にこだわるのか。それは『経験値』の問題だ。


 ――最後にダメージを与えた人が多めに経験値をもらえるけど、護衛についてきた人も一パーティーのメンバーとみなされてしまうのよね。


 つまり、意図せずして『経験値』を持って行かれてしまうのだ。


 それは出来るだけ早くレベルを上げたい私にとってはものすごく困る話で……。


 ――最終的には一人で立ち向かう(予定)なのに。


 王子の話によると「ある程度レベルがあると判断されれば、一人でダンジョンに入る事は出来る」と言われた。


 ただ、王子に前もって言われていた二つの道具は絶対装備しないといけないらしいけど。

 でも、それ以上に「一人で行っても良い」という話は私にとっては婚約してでもありがたい話だったのだ。


「――とは言え」


 突然そんな事を言ってきた王子の真意が分からない。


 ――なぜか私を「気に入った」って言っていたけど。


 その結論に至った話もされていない。そして、王子は「俺にはやらなければいけない事がある」とも言っていた。


「謎だらけね」


 なんて、ため息混じりについ先日の事を思い返していると……。


「お嬢様、旦那様がお呼びです」


 ユリアが颯爽と現れ、私にそう告げる。


 ――まぁ、そうよね。


 一応、私と王子。お互い納得した上での婚約ではあるが、何を隠そう私たちはまだ五歳だ。


 ――前世の記憶がある私はともかく。ああいった話が五歳ですでに出来ている王子にはつくづく驚かされるわね。


 だからまぁ、自分たちの親にも報告しないといけないので、報告をした結果。今に至っているワケだ。


「分かったわ」


 そう言って私は立ち上がり、ユリアの方へと行き扉を通って廊下へと出てお父様の元へと歩いていった――。

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