第3話
そして、今に至っている――。
「後はコレを丸めてこの板に置いて……真ん中を凹ませます」
「えと、こうかしら」
「そうです。そうです。あ、生地同士の間隔は開けて下さい。生地は膨らみますので」
「分かったわ」
最初でこそ驚いた私だったけど、あまりにも必死だったし、補助をするのは私の家の料理人。
つまり「二人だけで作るワケではない」という事に気がつき、ステラ様の申し出を受けたのだ。
「後はこの釜に入れて、焼き上がったらあら熱を取れば完成です」
「そうなのね、とても楽しみだわ!」
この世界では料理の作業で「焼く」とか「煮る」などをする場合。基本的に『釜』を使う。
――危ないとかそういった事はともかく、とにかく温度調整が難しいのよね。
今の私の魔法レベルは分からないままだけど、とりあえず『魔法陣』を維持出来る程度にはなっている。
――よほどの事がなければ、危ない事もないし、魔法で火事になる前に助けられるくらいの実力はある……と思う。
しかし、温度調節に関してはまだまだなので、最低限の補助は必要だった。
「……」
――ずーっと見ているわね。ふふ、カワイイ。
ジーッと珍しいモノを見るように釜の様子を見つめるステラ様はとても可愛らしい。
そして、王子は少し離れたところでそんなステラ様を優しい眼差しで見つめている。
――本当に仲が良いのね。
それは成長して魔法学園に入学した舞台のゲームの中でも一緒だった。
――それがゲームのレイチェルは気に食わなかったのよね。
レイチェルとなった今、少しはレイチェルの気持ちも分かる様になったつもりだ。
しかし、彼女がゲームの中で行った事を看過は出来ない。
ゲームの中での彼女は、主人公だけでなく色々な人にイジメを行っている。そして、その中の対象にステラ様も含まれていた。
――まぁ、主人公が王子を攻略する事を決めた時点でステラ様も出てくるのは確定事項なんだけどね。
実はこのゲームでは攻略対象全員と結ばれる『逆ハーレム』というルートが存在しない。
だが、その理由は「攻略対象の宰相の息子と王子の関係」が関わってくる。
何はともあれ、今の私にステラ様をイジメる理由もないし、そもそもイジメる必要もない。
そうこうしている内に生地が焼き上がったらしく、料理人が取り出した鉄板を前に、ステラ様は目をキラキラさせている。
――ふふ、本当にカワイイ人だわ。
目を輝かせている姿はまるで子供の様……と思った瞬間。すぐに我に返った。
「あ」
――そう言えば、まだ五歳だったわ。私。
たまに忘れてしまいそうになるが、私はまだ五歳だ。そして、王子も同じく――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「うわぁ、とても良い匂い!」
ここに来たばかり時は緊張でガチガチだったけど、今は随分和らいだらしく、満面の笑みだ。
「後はあら熱を取れば完成です」
「あら熱?」
「はい、今のままでは柔らかいですから」
「そうなのね」
そう納得はしてくれたモノの、その表情はどことなく「残念」と言った感じだ。
「出来上がりましたらお部屋にお持ち致します」
「ええ、お願いね。あ、持ち帰りが出来る様にもしておいてくれるかしら」
ユリアに尋ねると「かしこまりました」と答え、私はステラ様と王子を連れて書斎へと向かった。
どうして書斎に向かっているのかと言うと、先程まで使っていた部屋を急遽お母様が仕事で使う事になったためである。
「申し訳ありません」
「いや、仕事ならば仕方ない。俺たちは遊びに来ている様なモノだからな」
そう言っている王子は「気にするな」という様子だ。
「ありがとうございます」
「それに、アルムス家の書斎は興味がある」
――あ、そっちが本命ね。
私のお父様は魔法を研究していて、私が魔法の特訓として使っている『魔法識別装置』を作り出した人物だ。
そんな人物の書斎は……魔法に興味がある人からしてみれば、興味深いモノだろう。
――でも、今は私が調べ物をするために使っているから、王子が見たいと思っているモノを見られるかは分からないけど。
なんて事を私が考えているとは王子も思いはしないだろう……と思いつつ書斎の扉を開けた――。
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