第2話
当然、目の前にお菓子を出されれば食べるのが普通だろうけど、基本的に『王族』は大体「毒味役の人」が食べて安全性を確認した後で王子たちが食べる……というのが、彼らにとっての『普通』である。
「……」
そして「めかけの子」と揶揄されるステラ様もそんな王族の一人だ。
――ものすごく見ている。
しかし、彼女とて「年頃の女の子」だからなのか、スイーツには目がないらしく目の前の『クッキー』がかなり気になるらしい。
――コレは私が食べれば解決……なのかな。
コレを作ったのは「私」だ。しかも、王子たちが訪問する前に焼いてあら熱を取っていたモノである。
――まぁ、私が作ったモノだなんて王子たちは知らない事だし。
そう思った私はおもむろに『クッキー』を手に取り、そのまま何も躊躇わずに自分の口へと運んだ。
「!」
「!」
この行動にスティアート王子とステラ様はかなり驚いていたけど、ユリアが止めに入る事はない。
――ユリアはコレを私が作ったモノだって知っているからね。
しかも、最初に食べさせた相手もユリアだ。警戒する必要もない。
――まぁ、あら熱を取っている間に毒とか盛られていたら……それで終わりなんだけどね。
そんな事を考えてしまうと、それが思わず「苦笑い」として表情に出してしまいそうになる。
でも、以前の私ならともかく、今の私なら使用人に恨まれる様な事はない……はずだ。
「あ、あの」
「はい」
「どっ、毒味はされないのですか?」
コレが普通の反応……というより、貴族の常識だろう。
「あ、えと」
ただ、この当たり前の質問に答えるのは少し気が引けてしまい、思わずユリアの方を見て助け船を求めてしまった。
「こちらはお嬢様が自ら作られたモノですので、毒味の必要はございません」
私は自分自身で言う事を躊躇ってしまったが、ユリアは特に気にする事もなくサラリと答える。
「え! こちらを……レイチェル様がですか?」
「えぇ、まぁ」
ユリアからの言葉を受けステラ様は素直にリアクションし、王子は表情には出していない。
――でも、ユリアの言葉に反応はしていたわね。
「ひっ、一つ頂いてもいいですか?」
そう言うステラ様のリアクションはどことなく「もじもじ」といった様子で……とても可愛らしい。
「どうぞ」
もちろん、私に断る理由はない。だから、私は笑顔でステラ様に勧める。
「じゃあ」
「いや、俺が先に食べよう」
そう言って王子はステラ様を制する様に先に『クッキー』を食べた。
「!」
――まっ、まさか王子が先に食べるなんて。
コレには私もユリアも驚いた。
なぜなら、この国の陛下の息子はスティアート王子だけだったからである。
もし、コレで王子に何かあれば、私だけでなくお父様もお母様も含めた一族全員処分されてしまう。
――もっ、もちろん。先に私が食べて問題はなかったけど。もしお口に合わなかったら……。
そう思うと、冷や汗が止まらない。
「! コレは、美味いな」
王子のこの言葉を聞いてすぐにステラ様は『クッキー』に手を伸ばして食べた。
「おっ、美味しい! 口当たりが軽くて」
「甘ったるくないちょうどいい甘さだな。俺はこちらの方が好みだ」
多分、王子は無意識にこの言葉を言ったのだろう。
しかし、その言葉は私を始めとしたその場にいた全員の耳に届いていて……一つ食べ終わり、もう一つクッキーを手に取ろうとした瞬間。
何気なく「どうした、突然固まって」と言った感じで私たちの方を見ていた。
「いっ、いえ。お兄様がそんな事をおっしゃられるとは……その、思っていなかったモノで……その」
「そんな事?」
王子はステラ様の言葉を受け、自分の発言を振り返ると……すぐに思い当たったのか、顔が真っ赤になり始めた。
「……」
――意外ね。確か、ゲームの中のスティアート王子はクール系な印象だったから。
冷徹……とまではいかないが、それでもどことなく表情が乏しい印象が強かった。
そして、それはゲームの主人公が相手でもあまり変わらない。だからこそ、このリアクションはなかなかにレアだ。
――もしかしたら、年を重ねる毎に変わっていったのかも知れないわね。
スティアート王子は王位継承権を現在唯一持つ人物だ。
だからこそ、将来この国の王となるために色々な事を学び、そうしていく内に性格が変わっていったのかも知れないと私は考えた。
「いや、コレは……だな。その」
「お気になさらず、喜んで頂けたのなら、とても嬉しいです」
とりあえずあまり大きなリアクションはせずに、ニコリと笑いながら答える。
――驚きはしたものの、嬉しいのは本当だもの。
そうしていると、ステラ様が『クッキー』を見つめながら何やら考え込むように俯いている姿が目に入った。
「ステラ様?」
私は「どうしたのだろう?」と思い尋ねると。
「あの! コレの作り方を教えてもらえませんか?」
ステラ様はガバッと勢いよく顔を上げ、そう私に尋ねてきた――。
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