第3話


「それで……」

「――家の方が……」


 ――本当に貴族の人ってお話が好きよねぇ


 そんなこんなで今日、私は『王宮主催のお茶会』に参加していた……けど、私は隅っこの方で一人人間観察に勤しんでいた。


「……」


 どうやら今回のお茶会には王子と同じくらいの年の貴族の子供が来ている様だ。

しかし、私に声をかけてくる子供は誰もいない。


 ――まぁ私は公爵家の令嬢だから、私から声をかけない限り声をかけてくる人はいないだろうけどね。


 お母様から聞いた話によると「王族。例えば王子から声をかけられたらお話しないといけないけど、気軽にレイチェルちゃんに声をかけてくるような子はいないと思うわ」との事。

 なんでも、自分より身分の上の人にいきなり声をかけるのはマナー違反なのだとか。


 ――もし声をかけてきたとしたら、それは同じ公爵家か王族……もしくはそういったマナーを知らない常識知らずって事ね。


 正直、お母様からこの話を聞いた時は「教えてもらって良かった」と思った。

 なぜなら、レイチェルはどうやらこういった「初歩の初歩」は礼儀作法の稽古では随分と前に習っていたらしく、今更聞くに聞けなかったのだ。


 ――自分から声をかける必要もなければ、声をかけられる事もない。それなら私はここで見物人をさせて頂きます。


 ゲームの中での恋愛の攻略対象は王子と宰相の息子。後は魔法騎士団の団長の息子と……。


「あれ、後一人……いた様な?」


 ――でも、こうして見てみると中々バランスの取れたパーティよね。


 魔法の相性もさる事ながら、身体能力など色々なバランスを考慮してあるのがよく分かる。

 その中で私と大きな関わりがあるとすれば婚約者……になるはずの王子と昔から王子とは幼馴染みの関係である宰相の息子……くらいだろう。


 ――騎士団の息子と関わるとしたら私が婚約者に決まった後だし、彼は王子の護衛だったはず……だし。


 しかし、私は彼らが魔法学園に入学した時の姿しか知らない。


 ――うーん、そうそう見た目の差はないはず……と言いたいところだけど。


 残念ながら、今の私の目にはその二人の姿は確認出来ずにいる。


「どう? レイチェルちゃん」

「お母様」

「楽しんでいる?」

「えと、正直……」


 私が素直にそう言うと、お母様は「そう、でもそうよね」と苦笑いを見せた。


「すっ、すみません。お母様、少しお花を摘みに……」

「ええ、分かったわ。冷えちゃったかしら」


 どちらかというと、飲み物の飲み過ぎだと思う。


「場所は分かるかしら?」

「だっ、大丈夫」


 そう言って私は足早にお花を摘みに行った――。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「ふぅ」


 人間観察に勤しんでいたためか、どうやら飲み物を飲み過ぎたようだ。


「ん?」


 ――なんか、話し声が聞こえる様な?


 最初は「気のせい?」と思ったけど、少し立ち止まると、やはり数人の声が聞こえる。


 ――うーん、気がつかなかったフリをしたいところだけど……声が聞こえるという事は、足音が聞こえる可能性が高いって事よね。


 その時に「偶然聞いてしまった」というリアクションをすれば……。


「なんであなたも参加しているのかしらねぇ」


 判断に迷っていた私とは対照的に、会話は進んでいく。しかも、少し耳を澄ませば、どうやら複数人の令嬢たちで一人の子に言い寄っている様だ。


「あんたなんかにコレは必要ないわ!」

「!」


 ――正直、こういった話に自分からツッコミにいくなんてあんまりガラじゃないけど。


 そうは思っても、私はこういった『弱い者イジメ』みたいな事はものすごく嫌いだ。


 ――悪役令嬢が何を言ってんだって、ゲームをプレイした事がある人は思うでしょうね。


 むしろ、ゲームの中のレイチェルであれば、むしろ言い寄る側だっただろう。


 ――でも、残念ながら私はそうじゃないから。


 そう思いつつ、私は会話が聞こえるところまでゆっくりと歩みを進めた。

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