第2話
「一体どうしたの、ユリア」
彼女は私が前世の記憶を取り戻して最初に出会ったメイドだったのだけど、今や私の専属になっていて、何かあればすぐに私に報告をしてくれる。
「しっ、失礼致しました。実はお嬢様宛に王宮から招待状が届きまして」
「王宮から? どうして?」
ゲームの中での王子殿下と私は確か、同じ年という設定ではあった。
――でも、王宮から招待状なんて。
しかも、お父様でもお母様でもなくまだ五歳の私宛。
――何か理由があるのかしら?
確か、ゲームの中のレイチェルは幼少期の時点ですでに色々としでかしていて、悪評が目立ち始めていた頃だ。
――でも、今の私は何かしでかした覚えなんてないけど。
しかし、その悪評があっても王子と婚約者になれた事実には今でも衝撃だ。
ただそこは多分、お父様やお母様の功績がそれほど大きかったのだろうと今となっては思っている。
「あの。実は、お嬢様が五歳になられたという事でお茶会デビューも兼ねて是非いらして欲しいとの事らしいのです」
「わっ、わざわざ王子自ら。律儀ね」
そう、実は私はまだお茶会デビューをしていない。
本来であれば、誕生日の後から次第にお茶会を開いたり招かれたりするモノだけど、誕生日を迎えてすぐくらいのタイミングで私は高熱を出した。
そして、それ以降はそういったお誘いどころか自分で開く事も避けていたのだ。
――正直、どこで王子と出会うか分からないから、自分から王子に会う様な事は避けていたんだけど。
だから、今の私は外出もほとんどせずに毎日本を読みあさっては魔法の特訓をする……という日々を送っている。
「確かにお嬢様は誕生日会以降社交の場には出ておりませんが……どう致しましょう」
「……」
ユリアからもらった招待状に「お茶会は王宮で行われる」と書かれてある。
その時点で王族主催という事になるワケで、つまり王子と会う可能性が高い。いや、もはや必然だ
――本当はものすごく嫌だし、面倒だとも思う。そんな事より魔法の特訓をしていたいくらいだし。
でも、この招待を断って「不敬だ」なんて言われたくはない。ただ、どこでそういった話が出るのか分かったモノでもない。
――何よりお父様やお母様に迷惑はかけたくないし……ん? ちょっと待って。コレ、もしかしたら……。
ふと私は「このお茶会がきっかけで王子と婚約する事になる事も」と考えた。
――それなら、ここは「まだ体調が優れなくて……」とでも言えば断る事も出来るかも?
こうしてユリアがわざわざ私に言いに来ているという事は、ユリアも私の体調を心配してくれての事だろう。
そして、私がそう言えばお父様とお母様なら「分かった」と言ってお茶会に行く必要はなくなるかも知れない。
――でも、結局。お父様とお母様に心配をかけているのには変わりないよね。
「そのお茶会には他に誰がいらっしゃるか分かる?」
「予想にはなりますが、アルベルト公爵家の方は来られるかと……」
「そう」
――確か、アルベルト公爵家の長男は私たちの一つ上だったはずよね。それなら来る可能性は高いわね。
年がかなり離れていれば来ないだろうが、この国で数少ない公爵家の一つが参加する可能性が高いのに、王子と同い年である私が参加しないワケにはいかないだろう。
「……分かったわ」
「行かれるのですか?」
「ええ。他の公爵家の方も来られるのなら、私が行かないのは申し訳ないわ」
「たっ、確かにそうかも知れませんが……体調が優れないのであれば」
ユリアは相当心配なのか、その表情は不安そうだ。
――もう大丈夫なんだけど。
ただ、ユリアがここまで心配しているのは私が以前と相当変わってしまったのが原因らしい。
――まぁ、そうよね。
今までは色々な理由を付けて稽古事をサボって買い物に行ったり、前世を取り戻すきっかけになった雨の日に植物園行ったりして相当周りに迷惑をかけていた私から今の魔法の特訓に勤しむ私に変われば、心配するのも分かる。
――そろそろ慣れてくれてもいいんだけど。
それでもなかなか慣れないモノなのだろう。
――ただ、今となってはレイチェルが周りにワザと迷惑をかける様な事をしていた理由が何となく分かる。
多分、レイチェルは「一人」が嫌で寂しさを紛らわせるために使用人たちに無理難題を言っていたのだろう。
――五歳の子供なんて普通は親に甘えたい盛りだもんね。
レイチェルの両親は毎日仕事に追われていて家に帰って来ない事もしばしばだ。
だからこそ、そうすれば誰かは公爵令嬢であるレイチェルに構ってくれる。それをレイチェルは幼いながらに分かっていたのだろう。
「ユリア、ありがとう。何かあったらすぐに言うから」
「……分かりました。何かあればすぐに仰って下さい」
しかし、残念ながら今の私は見た目がレイチェルであっても、中身は今までのレイチェルではない。
だからこそ、お父様やお母様。周りの使用人たちの「甘やかしたい」という気持ちは分かってしまう。
――ユリアの気持ちもありがたいけど。
それに何より、自分の行動次第で「上手くいけば婚約回避が出来るかも知れない」と思うと、参加すべきだろう。
「それと、このお茶会には奥様も参加される予定です」
「あ、そうなの?」
「はい。王子にご挨拶をしたいそうです」
「そうなのね。分かった」
ユリア曰く「今回のお茶会に参加するには保護者の同伴が必要」との事らしいけど、こういった事が明記されているのは珍しいらしい。
「それでは奥様にお嬢様も参加される旨をお伝えに言ってきます」
「うん、ありがとう」
そう言うと、ユリアは頭を下げて私の部屋を後にした――。
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