第3話
『魔法に才能の有無はなく、魔法が使える人は全員同じレベルです。どんどん経験を積んで実力を身につけましょう』
本にはそう書かれていたのだ。
「なるほど、確かに」
言われてみれば、主人公も最初は小さい光信号くらいの魔法しか使えなかった。
ちなみに、魔法学園に通う頃にはほとんどの人が貴族という特権をフル活用して魔法が使える状態で入学している。
――それを考えると「魔法が使える」というだけで他には何も出来ない主人公が最終的には魔王と戦える様になるのだから、やっぱり魔法の才能があった様にも思えるけど。
操作をしているのは私の様な外部の人間だから、結局はその人のサジ加減という事なのだろう。
ちなみに、魔王に一人に対し主人公たちはパーティを組んで戦っているので、正確に言うと一対一ではない。
――まぁ「普通はそうだ」って事で。
その上、主人公が使う光魔法は魔王の闇属性とは相性が良く。魔法の効果が抜群だ。
――でも、他の魔法でも一応攻撃は通るし、全く効かないってワケじゃないしね。
ただ、効果がいまひとつなだけだ。
――それを考えると、やっぱり一番手っ取り早いのは身体強化して物理攻撃の威力を上げるか……。
でも、せっかく貴族令嬢に生まれたのだし、あまりムキムキボディになりたくはない。
――魔法のレベルと身体のレベルが別になっているのよね。このゲーム。
しかし、自分が今どういった状態なのかを知る事の出来るいわゆる『ステータス』といったモノは、どうやらこの世界には存在しない様だ。
――あくまでゲームを操作している人の特権みたいなモノって事ね。
ものすごく面倒ではあるけど、無いモノは無いのだから仕方がない。
「それにしても……」
――魔法に才能の有無は関係なく、しかもスタートラインはみんな一緒だったという事は……。
「レイチェルってどれだけ魔法の特訓サボっていたのよ」
思わず口に出してしまったが、目が覚めて前世の記憶を取り戻してから初めて会った両親を見た限り「魔法の特訓なんてしたくない!」と私が言えば「仕方ない」と言いそうな雰囲気ではあった。
だからなのだろう、魔法学園に入学した後のレイチェルの成績は下数えた方が早かったのは。
――普通ならこんな人が王子の婚約者……いえ、婚約者候補にすらなれないのでしょうけど。
しかし、この低スペックに対してそこはこの国でも三つしかない『公爵令嬢』という高い家柄がカバーしてくれた事と、レイチェル本人が「王妃様になりたい」と強く望んだ結果なのだろう。
――しかも、運が良いというか。悪運が強いというか。
実はその公爵家の中で殿下と同じくらいの年代の女の子はレイチェルだけだったのだ。
そんなワケで、ゲームの中でレイチェルはこの国の王子の婚約者として登場する。
――そして、主人公が王子と仲良くする度に嫉妬してイジメや嫌がらせをする……と。
本を閉じつつ、私は目を閉じながら天井を見る。
「……」
正直、私がここにいる理由は……多分。私が文字通り「死んで転生した」という事なのだろう。
そして、その「死んだ理由」も何となく分かっている。
なぜなら、私は今いる世界が舞台になったゲームを買いに行く途中で歩道橋から足を滑らせて転落したという記憶が残っていたからだ。
「ちょうどファンディスクを買いに行く途中だったのになぁ」
私はどちらかというと恋愛要素よりアクションゲームとして楽しんでいたところがあり、ストーリーもなかなか面白かったと記憶している。
そして、このゲームはかなり人気が出たらしく、ファンディスクが出た。
ただ、実はこのゲームの中に出てくる『魔王』についてゲーム本編ではあまり詳しくは書かれておらず、いくつか謎が解明されないままだった。
そして、その謎がファンディスクでついに解明される……予定だったのだ。
「はぁ」
――どうして魔王が封印されたのか……もっと色々なストーリー、見たかったな。
正直そこも悔やまれるし、家族や学校の友達にも別れを言う事が出来なかった。
死んでしまった今となっては、家族が死んだ私に対してどう思ったのかを知る術はない。
――それに、目が覚めたら前世の記憶を取り戻していて、しかもこのまま行ったら『死』しかない悪役令嬢だなんて……嫌すぎる。
「とりあえず、今すぐにやるべき事は魔法の特訓かしら」
ユリアに聞いたところ、どうやら私はまだ魔法の発現はしていないらしい。それもそのはず「魔法の発現は五歳頃」としか書かれてはいない。
そして私はつい先日五歳になったばかりだ。
つまり、この本の通りなら六歳になる一年以内に魔法が発現するというワケなのだろう。
――そう言えば、こういった細かい部分はゲームの中じゃ説明していなかったわね。
今はとにかく魔法やこの国の事を知る事が重要だ。しかも、私はゲームの主な舞台だった魔法学園の事しか知らない。
これから自分の死亡フラグを回収される前に、もっと色々な事を知る必要があるだろう。
「よし」
そう意気込んでいた私に、ちょうどユリアがタイミング良くノックをし「お嬢様、お茶はいかがでしょうか?」と優しく尋ねる。
「ありがとう。ユリア」
部屋に入ってきたユリアに紅茶のお礼を言うと、ユリアは「一緒にお菓子もお持ちしました」と勧められ、私は一旦本を読むのを止めて休憩をする事にした。
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