第2話


「さて」


 目が覚めてから、朝食を食べてその後は……私がまだ五歳の子供でなおかつ昨日まで寝込んでいたので、特にやる事はなかった。


 ――貴族って稽古とか色々するモノかと思っていたけど。まぁ、まだ五歳だものね。それに、昨日まで私は寝込んでいたし。


 そこは納得出来ていたけれど、ここまでたった数時間の話なのに、使用人たちは「お嬢様、どうされたのだろう」と言った視線を向けられる事がとにかく多い。


 ――まぁ、仕方ないわよね。


 ユリア曰く、私が高熱を出して寝込み始めたのはここ一週間ほど前からの話だったらしい。


 その高熱を出した日も私のワガママは絶好調だったらしく、メイドたちが用意したいつもお気に入りの服を「今日はそんな気分じゃない」と一蹴し「ピンクの髪留めはないの?」と無いモノをいきなり言い出す始末。

 使用人たちに宥められてふて腐れながらも朝食を食べた後、雨なのにも関わらず「庭の散歩をしに行く」と聞かず、使用人たちも半ば呆れた様子で私に付いていたそうだ。


「それで、お庭の散歩が終わってしばらくしたら熱が出始めてしまって」

「……」


 申し訳なさそうに話すユリアに対し、私はまたも頭を抱えたくなった。

 今のユリアの説明を聞いた限り、どう考えても私の自業自得でしかなかったからだ。


「お嬢様に何かあったら……と思うと気が気じゃなくて」


 本当に私の心配をしてくれたのだろう。俯いたままのユリアに対し、私は「心配ごめんなさい」と彼女の手を握ってそう言った。

 そして、以前の私が迷惑をかけたであろう使用人たちにも謝罪の言葉や日頃の感謝を伝えて回ったのだ。


 だからまぁ「お嬢様どうされたのだ?」と思われても仕方がなかった。それこそ「見た目は変わっていないのに、言動は全然違う」と思われたに違いない。


 ――でも、これからはこれまで通りするつもりは全くないわ。


 そうした結果『死』しかないのであれば、その道をその通り歩く必要はない。


 ――それに。


 両親が私に甘いのは、なかなか子供が生まれなかった公爵家にとって待望の子供だったらしい。

 そして、両親の仕事が忙しく毎日寂しい思いをさせてしまっている事に対する「ごめんね」の気持ちからだと言う事をユリアから聞き、前世でプレイしたゲームの記憶とすり合わせて何となく理解した。


 そういった経緯もあって両親は私を甘やかして育ててしまったのだ。


 ――今の私なら何となく分かるけど、コレが五歳の子供じゃあ勘違いしてもおかしくないわね。


 両親からすれば「カワイイ子供のワガママ」だったかも知れない。それでも「限度というモノがある」と思えてならなかった。


「それにしても、五歳か」


 朝食の後。暇を持て余していた私はお父様の書斎で見つけた本を使用人に取ってもらい、自室でそれを読んでいた。

 その内容によると「魔法を使える様になるのは五歳になってから一年以内」と書かれている。


 ――文字が読めなかったらどうしようと思ったけど、読めるみたいで安心したわ。


 でも、昨日は気が動転していて気がつかなかったけれど、レイチェルの部屋には何冊か本が置いてあった。

 そして、使用人に「この本を取って欲しい」と言っても特に何も言われなかったところを見ると、レイチェルはよく読書をしていたのだろう。


 ――それもほとんどおぼろげになっちゃっているけど。


 ただ、この本に書かれている内容は非常にためになった。

 一応、ゲームをプレイした身だからこの国では『魔法』が存在している事は知っているし、主人公が庶民出身でありながらを使えて、しかも魔法の中でも極めて珍しい『光属性の魔法』という事も知っている。


 ――魔法が発現するのは五歳ぐらい。しかも大体が貴族。魔法の種類は……。


 水・風・炎・地の四種類となっていた。


「確かレイチェルは風だったはずよね」


 ゲームの中のレイチェルは確か『風魔法』を得意としていたが、その威力は……まぁ、お世辞で『そよ風』程度という有様だった。


「ふーん、得意魔法はだけでなく適性があれば他の魔法も使える様になる……と」


 ――ここは悩みどころよね。極めるか手広くオールマイティになるか。


「ん!?」


 何気なくページをめくると、次に飛び込んできたある一文を見て、私は思わず大声を上げてしまったのだった。

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