フラグ回収される前に魔王を倒します!
黒い猫
第1章 前世の記憶が戻っちゃった!?
第1話
「ここ……は?」
「お嬢様! ああ、良かった!」
――ここは、どこだろう。
目の前で涙を流しながらずっと私を『お嬢様』と呼ぶのは、私の記憶ではメイドと呼ばれる服装の女性。
でも、私は『お嬢様』と呼ばれる様な人間ではない。それこそ、どこにでもいる一般的でありきたりな女性のはずだ。
――それなのに、私の目の前にあるのは豪華な寝室の風景なんだろう。
「お嬢様? どうされたのですか?」
心配そうに私に尋ねるメイドの女性にも見覚えなんて全然ないし、そもそも自分の置かれている状況がイマイチ飲み込めていない。
――仮に今ここで騒いだとしても、特に問題はなさそうな気はするけど、そんな事をする気になれない。
それに、このメイドのお姉さんは私が心配なのかどことなくオロオロとしている様に見える。
そんな人を困らせる気にもならないし、それにやたらと家の中が騒がしい……のは多分。私が目を覚ましたからだろうと簡単に予想が出来た。
「心配させてごめんなさい」
だから、私は心配してくれるメイドに向かって小さく笑って謝った……のだけど。
「え!」
「え?」
「おっ、お嬢様が謝られた……あっ、あの。お嬢様、私。何か粗相を?」
「え?」
正直なところ「何があったのかは分からないけど、私は彼女だけでなくたくさんの人に迷惑をかけてしまったのだろう」と思って謝っただけなのに、どうやらコレが彼女にとっては逆効果だった様だ。
――いや、なんでよ。
どう考えても、このメイドに落ち度はない。むしろ心配までしてくれている。
それなのにどうして……。
そう考えた私はすぐにハッとして、ちょうど目の前にある鏡まで近づいて自分の姿を見る。
「えぇ!」
「お嬢様!?」
自分の姿を見た私は愕然とし、その場で頭を抱えた。
「お嬢様!?」
メイドは驚きつつも声をかけてくれている。でも、その声も私には全然届いていない。それよりも、私は自分の姿を見て愕然としてしまっていた。
――なんで、よりにもよって。
そう思わずにはいられなかった。なぜなら、私は悪役令嬢に転生してしまった……という事に気がついてしまったから。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「お嬢様。本当に大丈夫なのですか?」
「ええ、大丈夫よ。ユリア」
自分自身の姿に愕然としてしまった私に優しく声をかけてくれたメイドの「ユリア」にそう言うと、ユリアは「良かったです」と可愛らしく笑う。
――本当に、こんなに可愛らしい人によく無茶ぶりをしていたモノね。
そう思うと、思わずため息をつきたくなってしまう。
でも、実際のところ今の今まで私は両親に「蝶よ花よ」と甘やかして育てられ、とにかく私はワガママに育ったのだ。
――そのなれの果てが『悪役令嬢』だものねぇ。
元々、前世での私はどこにでもいる会社員で一般庶民だった。たまにちょっと贅沢が出来る程度の幸せと、少し離れたところに住んでいるたまにケンカはするけど仲の良い家族がいた。
――それがどうしてこうなったのだろう。
自分の今の姿が「たまのちょっとした贅沢」として買ったゲームの中に出てくる登場人物の一人。
それも『悪役令嬢』として出てくる公爵家の令嬢のレイチェル・アルムスである。
このゲームの中で彼女は主人公を時にはイジメ、罵倒を繰り返す……という立ち位置で、最終的には国外追放か修道院に送られる。
昨今の悪役令嬢の中で「死ぬ」という危険性がなさそうに見えるが、実はこのゲームでの恋愛要素はそこまで重要ではない。
――いや、ある程度親愛度が高くないと困ると言えば困るんだけど。
それでもバッドエンドは避けられるようになっていた。
一番重要だったのは、魔法の熟練度や身体強化によって上がるレベル上げである。
コレをしておかないと、いくら攻略対象との親愛度がマックスの状態でも本編のクリアまでたどり着けない。
なぜなら、主人公たちが魔法学園を卒業するというタイミングで伝説の魔王が復活し魔王領にいる魔物の勢力が活発になるからだ。
そして、主人公たちはそれに立ち向かわなければならず、そして勝利を収めないといけない。
――その前にレイチェルは国外追放か修道院に行く事が決まるんだけど。
つまり、最終決戦とも言える場にレイチェルの姿はないのだ。
それに、魔王領の勢力が活発化した事による魔物の被害にレイチェルは巻き込まれる様な形で亡くなっている。
だから、国外追放になろうが修道院に送られるようが結末は変わらないのだ。
「はぁ」
――転生した時点ですでに結末が決まっていて、死亡フラグが立っているなんて悲しすぎる。
ユリアは「今日一日ゆっくりとお過ごしください」と言って外に出ている。
もちろん、私が呼べばすぐに駆けつけてくれるだろう。きっと他の使用人たちもそうだ。
前世の記憶を思い出した反動からなのか、どうにも今までの言動はおぼろげになっている。
それでも褒められたモノじゃない今までの私の言動に、この家の使用人たちは本当によく付き合ってくれたと思う。
「……」
医者やユリアの話によると、今の私はちょうど五歳になって少し経ったくらいらしく、ユリア曰く「とっても豪華な誕生日パーティーでしたよ」との事。
今の私からすると、それはとてもドン引きしてしまいそうだけど、でもそれはつまり、魔法学園に入学するまでまだ時間がある事を示している。
――そこはとてもありがたい。
魔法学園に入って大分時間が経ってしまっていたら、為す術はなかったかも知れないけど、時間があるのなら……。
「ん? ちょっと待って」
そこで私はふと考えた。
実は、魔王は復活していないモノの『魔王の配下たちの魔物の勢力』は小さいながら昔から存在し、人間側は今も牽制を続けている。
――つまり、魔王が復活してすぐのタイミングで倒してしまえば自分の死亡フラグを回収されずに済むって事じゃない?
そもそも、私が主人公をイジメなければ国外追放や修道院に行く事もない。だから「イジメない」という事は確定事項だ。
――でも、私が「イジメなんてしていない」と言ったところで信じてもらえない状況だったら意味がないわね。
そうなると、魔法学園に入学してすぐにすべき事は私といつも一緒に行動してくれての無実を証明してくれる友人を作る事だ。
――決してユリアが頼りないというワケじゃないわ。
しかし、彼女はこの家のメイド。つまり使用人だから「使用人が主人を守るのは当然」と言われてしまったらそれでおしまいである。
そしてもう一つが「魔王勢力の活性」の大きな要因となる魔王が復活してすぐに倒す。復活してすぐであれば、まだ倒しやすいかも知れない。
――そもそも、国内にいても魔王の勢力が大きくなってそれに巻き込まれたんじゃ意味ないからね。
「よしっ、とりあえずやるのは明日から!」
やるべき事が決まった私は、一人小さく意気込み、ユリアの言うとおりその日は一日療養に当てる事にしたのだった。
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