人生に勝ち負けなどない(皇帝の逆位置)

「下僕!」

「はい王様」

「今宵はずいぶんと早いではないか! 何故日頃より心がけぬのだ!」

「いや今目の前にいたからでしょうが! 態々大声で呼ばなくても聞こえる距離にいるんだから、いつもとは状況が違うわよ!」

「口答えは相変わらず変わっていないとみた、かくなる上は……!」

「毎度失言申し訳御座いません! ご用件をお伺いします王様!」


 父と呼んで慕っている皇帝の弟であり、女王様の夫でもある王様からの呼び出しを受け、思わずげんなりした。彼に呼ばれると毎回このくだりになり、正直言ってかなり疲れる。


「下僕よ、何故人間風情は己と他を比べ、優劣をつけたがるのだ!」

「あ、今回は女王様関連じゃないんだ……」


 彼が私を呼びつける理由の多くは、妻である女王様へのプレゼントを渡してこいだとか、何を欲しがっているのか聞いて来いといった、女王様関連でこき使うためだ。自分ですればいいものを、彼は父と同様不器用な人でもあり、ひねくれた考え方を持っているので絶対に自分ではやらない。女王様も、彼のその性格を理解した上で面白がっておもちゃのように考えているから、本当にお似合いだなと思う。

 ところが、今回私を呼びつけた理由は女王様関連ではなく私達人間に関する質問を問うためだったようだ。こういう質問をしてくることもあるんだなと、今考えると物凄く失礼なことを思った私は、彼からの質問に対しどう答えようかを考えた。


「全員がそうってわけではないんだけど、どこか安心するからじゃないかな?」

「安心……?」

「あなたたちも承知の通り、人間は弱い。その弱さゆえに自分と同じように弱いものがいると、仲間意識みたいなものが芽生える。自分よりも弱いものがいると、自分の方が強いといった優越感のようなものが芽生える……こんな感じじゃないかな?」


 この芽生えた感情が良い方向に進めば、協力性が生まれたり他者を保護しようという考えが生まれたりする。誰しもがそういった感情になれば平和的なのだが、そううまくいかないのがこの悲しい世界。


「何とも愚かしい……人生において勝ちや負けといったものは存在せぬ! その者の主観で全うしたと思ったのならそれでよいではないか!」

「そうだよね、そういう考えの人がもっと増えてくれたら変わるのかもしれないけど……難儀だな」


 故意に人生を終わらせようとする人や、人の人生を終わらせようとする人に対してであれば、厳しい意見を言ったりなだめたりする。

 しかしながら、自分の人生をもう少しこうした方がよかったという劣等感や、自分ができたことに対する優越感は、他人と比べるようなものではない。ましてや、個人のみならず故人に対して、優劣を定めるようなことはするべきではない。


「小さきことに幸せさえも、感じられないほど欲深いとは、愚かしいにも程がある! 日常を当たり前だと考えるなど、身の程知らずだな!」


 彼からの厳しい指摘に、私は何も言い返せなくなるのであった。

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