チェックメイト(正義の逆位置)
「冥界の女王よ、今こそ決着の時……!」
「あーはいはい、用意するから待っててね」
彼女にテディベアをプレゼントして以来、定期的に彼女から手芸のお誘いが来るようになった。彼女もまた、私と同じく手芸を趣味としているようで、彼女が大事にしている縫いぐるみたちの服を作りたいらしい。
「どんな服装にするの?」
「我が下僕共に相応しい、漆黒の闇に染めてやるのだ!」
「寒がりだからマントを作ってあげたいんだね、じゃあ少し縫いにくいけどボア生地にしてあげたらいいんじゃないかな」
前回安売りセールの時に買ったボア生地の端切れを差し出すと、嬉しそうに受け取ってくれた。彼女のこういう一面を見ていると、きっとこっちが素の彼女なんだろうなと安心する。
「時に、冥界の女王よ。貴殿が愛を捧げるならば、白と黒どちらを選ぶ?」
「黒だね」
「随分と即答だな、その理由は?」
「私の目指したいと思っている色だから……かな。黒には絶対に変わらない覚悟と、周りを支えようとする基盤の意味が込められていると思うの。だから私もそうなりたいなって……」
幼い頃は、可愛らしくピンク色が好きだと言っていた。カードたちと出会う前くらいから思考が変わり、今となっては黒を好むようになった。どことなく、力強さと安心感を与えてくれる色に自然と惹かれ、自分もそんな人になりたいと思うようになった。その結果かは定かではないものの、私を知る人にとって、黒は私を連想させる色になっているらしい。
「流石は冥界の女王だ、素晴らしい」
「そういう逆正義さんはどうなの?」
「我は全ての色を支配するもの。特定の色には縛られず、またすべての色と混合することもない……私だけの色を愛するだけだ」
「そっか……そうだね。自分だけの色を持っているなら、そっちを大事にしたほうがいいと思う。その方が貴女らしい」
そういう私に、彼女は一瞬だけ目を見開き、やがて優しい笑みを浮かべた。本心を隠すために、わざと中二病のような態度をとり続けている彼女にとって、彼女の色は本来の彼女に戻れる唯一の色。誰にも渡さない、彼女だけの色なのだろう。
「チェックメイト……」
「え、もう出来上がったの? おしゃべりに夢中になって全然できてなかったよ……」
「これは貴殿の下僕用だ、貴殿の色に染め上げてやるといい!」
「ありがとう、きっと喜んでくれると思う」
いつか、黒以外の自分だけの色が見つかるのだろうか。そうなったら彼女のように自分だけの色を守り通そうと、強く思うのであった。
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