発掘された気持ち(愚者の逆位置)
彼は心底面倒くさがりで、いつも口を開けば怠いと連呼する。頭の中では、常に色んな事を考えてはいるものの、いざ実行しようとしたときに不安に駆られ、結局実行するのをやめてしまう。
「なあ……」
「ん?」
「お前……山とか好きか?」
「こう見えても山登りとかは好きな方よ?」
出会った当初、私の顔を見るなり怠いといい、それ以上何も話そうとしなかった、『愚者』の逆位置。そんな彼は、最近になって少しずつ自分のことを言葉にするようになってきた。しつこいと思われるくらいに私が構いに行っているからなのか、彼の中で何か変化があったのかは分からないが、私にとっては喜ばしい変化であった。
「……怠い」
「あ、もしかして……山登りの山じゃなくて、鉱山の事言ってた?」
彼の宝物でもある、エメラルドを見せてもらって以来、彼が鉱石好きであるということが判明した。そして、好きな話をする時の彼は、少しばかり口数が多くなり、表情も柔らかくなるということも知った。余談だが、自分にとって理解不能なことが起こると、早口でまくし立ててきたりもするので、なかなかに見どころの多い人物である。
そんな彼から、山というキーワードが出てきたということは、彼の好きな鉱石が絡んでいるのではないかと思い、訪ねてみると、小さく頷いた。
「俺の世界に、一つだけある……」
「え、そうなの?」
「正位置が、見つけたと言ってた……」
「そうなんだ! 行ってみたいな」
「……怠い」
遠まわしに一緒に行こうと誘ってみたものの、流石に出かけるのはまだ難しいようだ。思えば、彼がどこかへ出かけるところを見たことがない。何時も彼の世界にある自室に引きこもっているからだ。外の世界に興味がないというわけではないようだが、いろいろ考えた結果出かけるのをやめているのだろう。
「一緒に行こうよ! 折角自分の世界にあるってわかったんだから、見ておかないと損よ!」
「……なんでそんなに楽しそうなんだよ」
「自分の好きなものが近くにあるって、楽しいじゃない。私なんて家の近くに手芸屋さんが出来たって聞いただけでも嬉しいもの!」
「……お前らしいな、はは」
完全に馬鹿にしたような笑い方だが、これが彼の中での精一杯の笑顔である。感情を表に出すことも面倒くさいと考える彼は、こうして時々彼の許容範囲の感情を見せてくれる。初対面の相手なら、いい気はしないが彼相手になら逆に嬉しい。
「……分かったよ、また今度行こうぜ」
「え、ほんと? というか、一緒に行ってもいいの?」
「お前が誘ったんだろ、俺一人は怠い……」
「やった! じゃあ行く時誘いに来るから、絶対に行こうね!」
自分の事のように喜ぶ私を見て、彼は怠いといってため息をついた。今彼が何を考えていたかは分からないが、少しでも喜んでくれていたらいいなと思うのであった。
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