俺様方程式(悪魔の正位置)
「なぁ、お前人生楽しいか?」
デビちゃんの唐突な言葉に、私は飲んでいた珈琲を吹きそうになった。突然何を言い出すんだこの悪魔はと、心の中でツッコミを入れ、息を整える。
「ある程度は楽しませて貰ってるわよ、嫌なことばかりの世界ではあるけど、二倍楽しいことがあるし」
「それ、嫌なことと比べた時の満足度が二倍だって話だろ? 俺様が聞いてんのは、お前自身の人生楽しいかって聞いてんだよ」
質問の意図が掴めず困惑する私に対し、彼は呆れた様子で溜息をついた。何故そんなことを聞くのか問うと、彼から見た私は、自分を押し殺しているように見え、とても人生を謳歌しているとは思えないから聞いたのだという。
彼の言葉に、私はかなり刺さるものがあった。何時も頭の中でこうしたいという考えは浮かぶし、全く自分を持っていないという訳では無い。
ただ、その考えを形にしようとした時、本当にそれでいいのかと深く考え込んでしまうのだ。人に話してもいいものなのだろうか、変ではないだろうかとグルグル考えた結果、胸の内に秘めておく方が良いと判断してしまう。その結果自分を押し殺し、人に合わせてしまうのだろう。
「なんだよそれ、それじゃあ誰の為の人生か分かんねえじゃねえか!」
「……デビちゃんの言う通りかもしれない、私てんでダメだな」
ゲラゲラとお腹を抱えて笑う彼の言葉に、私は益々落ち込む。どうしてこうも自分の意見を口に出せないのだろう。何をこんなに怖がっているのだろうか。
「俺様は謳歌してるぜ!」
「それは見れば分かるわよ……」
「俺様には、俺様の方程式があるからな! 方程式に当てはめて成り立つものは必要、成り立たねえものは不要って判断してるんだぜ?」
「方程式?」
「自分の人生において不要なものなんて、持ってても意味ねえだろ? その判別が出来ねえなら、基準を立てればいい。それが俺様方程式だ!」
デビちゃんは自信満々にそう言った。彼が言うには、方程式に当てはめた時、成り立つものであれば、人生において必要なものだと判断する。逆に成り立たないものであれば、不要なものと判断する。その小さな判断が、人生を謳歌するにあたって必要な事だという。
「俺様は自分が楽しいと思える生活を送る為の苦労なら、とことん受け入れるぜ? その苦労を超えてこそ楽しい生活が出来るからな」
「そうだよね、楽しさの裏には何時だって苦労がある。苦労なしに楽しさは得られないし」
「方程式ってのは、自分のわがままで作るもんじゃねえ……他人に譲っちゃいけねえと思う信念から作るもんだ。他人によって簡単にねじ曲げられる信念なら、強くする為に何が必要かを考えればいい。自分の人生は一度きりだからな、どう謳歌するかが重要だぜ?」
優しい悪魔は、そう言って笑った。それは彼が、私と過ごすこの時間でさえも楽しんでいるというのが分かる笑顔だった。きっと彼の中の方程式に、私もちゃんと当てはまっているのだろうと思うと、嬉しくなるのだった。
私と彼等の日常は、あまりにも非現実的過ぎる(正位置ショート版) 死神の嫁 @Riris0113
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