さようならよりまたね(塔の正位置)
ほぼ毎日、私はカード達の元へ足を運び、彼等の様子を見て回っている。人数が多いということもあり、滞在時間こそ短いが、それでもカード達は歓迎してくれる。
この日も順番に回り、タワーさんこと『塔』の正位置の元へ来ていた。談笑しながら時間を共に過ごし、そろそろ次のカードの元へ行こうと立ち上がった。
「それじゃあタワーさん、またね!」
そう声を掛け部屋を出たのだが、ドアが閉まる寸前彼が驚いたような顔をしていた事が気になった。何かあったのか聞こう思ったが、次に会った時にしようと思い、その日はそのまま別のカードの元へ向かった。
「主……あのね」
「……ん?」
次の日、自室で寛いでいた私の元に、おずおずと彼が訪ねてきた。何か言いたげな表情を浮かべ、どこか落ち着かない様子の彼を宥めてから、椅子に座らせた。
「あの……ずっと聞きたい事があったんだ……聞いても、いいかな?」
「勿論だよ、どうかしたの?」
「主は……何時も別れる時、さようならって言葉、使わないよね? 僕と……同じなのかなって思って……」
彼は私が別れ際、何時もまたねという言葉を使っていることに気付き、自分と同じで、さようならという言葉が苦手なのではないかと思っていたという。
確かに彼の言う通り、私は別れ際さようならとは言わない。その理由は、今後会う可能性にさえも別れを告げているような気がしてならないからだ。考えすぎだとは思うが、言葉には人をその言葉通りに行動させてしまう力があるような気がしてならない。だから、せめてもの抵抗として、まだ会う可能性を作るまたねという言葉を好んで使っているのだ。
「そうね、さようならって言葉は使わないようにしてる。永遠の別れを告げるみたいで嫌なのよね……」
「僕も……さようならって言われるより、また会おうねって言われる方が嬉しい……」
言葉は捉え方ひとつで解釈が変わってしまう。カード達を解釈する時もそうだが、色んな方向から彼等を知ろうとする事で、見えてくるものがある。それは誰と関わる時も同じなのだ。
「タワーさん、ありがとう」
「主……?」
「同じように考えてくれる人が一人いるだけで、こんなに安心するんだなって思って……何時もおかしいって言われるから 」
「僕……伝える事しか出来ないから、役に立ってないと思ってた。まだ可能性があるって知って欲しくて、でも本人がやらないと意味をなさないって言うのも知ってたから……どうしていいのか、分からなくなってた。でも、主が伝える事にもちゃんと意味があるって、僕に可能性を教えてくれたから……嬉しかった」
そう言って彼はとても綺麗な笑顔を浮かべて笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます