私と彼等の日常は、あまりにも非現実的過ぎる(正位置ショート版)

死神の嫁

夢のまた夢(愚者の正位置)

「久しぶりだな、主!」


 久しぶりに、彼が帰ってきた。と言っても占いをする時には一旦戻ってきてくれているが……

それでも彼とこうして顔を合わせるのは久しぶりだった。


「久しぶりだね、愚者さん。何処に行ってきたの?」


 彼が帰ってきた時、必ずお土産話を聞く。彼が見てきた世界や印象に残った世界の話は、何時も色とりどりで輝いているからだ。話を聞いただけなのに、その世界へ惹き込まれる感覚は不思議で楽しいものだった。


「嗚呼、今回は夢に行ってきたぞ!」

「夢……? 夢の世界って事?」


 彼は言葉や行動などに縛られることを嫌うため、表現も独特だったりする。大体はわかりやすく話してくれるが、たまに素っ頓狂な事を言ったり、理解不能な事を言う。その度に確認しないと認識の違いが出てきてしまう事もある。


「主が思う夢とはまた別の世界だな! 夢のまた夢の世界と言えるな!」

「夢のまた夢……? 夢の中に夢の世界があるみたいな?」


 自分で言っておきながら全く分からなくなってしまったが、言いたいことは伝わっただろう。一般的に見る私達の夢、それは寝ている時に見るものもあれば将来こうなりたいという理想の形でもある。そんな夢の中にある、別の世界……彼はそこに行ってきたという。


「夢のまた夢の世界って、夢がいっぱいある世界ってこと? 想像つかないなぁ」

「夢もまた、夢を見る。あの世界は夢が見た夢で溢れていた。それぞれが輝きながらも儚く散っていく様は、何とも言い表せない感覚だった」

「夢が見る、夢……どんなものなんだろう」

「夢は人から生まれ、人によって消されてしまう存在だ。故に夢は、自分が消えることの無い夢を見るのかもしれないな……どんなものも、自分の幸せを思い描くものだ」


 愚者はそう言って笑った。夢のまた夢というのは、決して叶うことのない、悲しく切ない夢……今もどこかで儚く散っている夢があるのかと思うと、行き場のない悲しみでいっぱいになった。


「私の夢、生かせるかな……?」

「それは主次第だ、夢と共に生きるかどうかは、主が決めればいい。気に病むことは無い」

「ありがとう……でも私は自分の夢に悲しい思いをして欲しくない。折角出会ったのに何もしてあげられないなんて言うのはやっぱり嫌だもん。夢にだって幸せになる権利はあると思う。それに、夢は自分の一部だと思うから……」


 自分から生まれ出た、夢。生かすも消すも自分次第とは言うけれど、その夢にだって未来があるのかもしれない。夢とは言えど侮ってはいけないんだなと、何となくそう思った。

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