まだ〈趣味〉の中にいる

「あなたはまだ〈趣味で楽しみたい〉と、〈学んで仕事にしたい〉の区別がついていない」


 高校の三者面談にて、その当時の担任に言われた言葉。数年経った今でも思い出す。言われた当時は全く意味がわからず、その当時興味のあった〈舞台芸術〉を学んで何かしら仕事にしたいと思っていたが、志望大学に進級し、様々な経験をし、この言葉の意味を理解した。そして、将来その分野で生きることを諦めた。そう決めたのは大学一年生の冬だったように思う。


 大学で学び始めてから三年が経ち、大変お世話になっている先生の仕事を手伝うことになった。

 いつもは経験を多く積み、上手く仕事のできる学生に声が掛かっていたものだ。それが何故か私に声が掛けられた。私のような者が受けていい仕事ではないと思い、一度は断ったものの、結局は私がその仕事を手伝うことになった。

 勉強の上に手伝い、休む時間などは一切ない期間が一ヶ月ほど続いた。今まで蓄えた知識を使う場面もあれば、新しく知ることもあり、貴重な体験だったが地獄でもあった。

 けれども、その一ヶ月という期間を楽しんでいた。そしてこれを仕事には出来ないと思い、閉ざしていた気持ちがゆっくりと動き始めてしまった。


 卒業後、安定しない職で生きていくことの難しさなんて知っている。大学に入ってからそんなものは目の前で散々見てきた。

 だが、そう思ってしまったのだから、少しでも後悔をしないように。

 まだ、この歳になっても〈趣味〉と〈仕事〉の区別がついていないけれど、少しでもいい方向に行けるように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る