三 二匹が見たもの

「拾った」


 そういってたぬちゃんがよこしてきたのは、つるっとした緑のおわんのようなもの。


 振るとガサガサ、音がきこえる。


「なんだろ。食べ物かな?」


「そんなことはどうでもいいのさァ。見てごらんよ。ほら、緑のたぬきって書いてある」


「ほんとだ」


「きっとぜんぶこいつのせいさね」


 たぬちゃんは小さな前足で、緑のおわんをポコポコ叩いた。


「やめなよ、たぬちゃん。かわいそうだよ」


「なにおぅ」


「きっとそれ、だれかのおとしものだよ。大事なものかもしれないよ」


「ぐぬぬぅ」


「拾った場所に戻しに行こ?」


 たぬちゃんはね、ほんとはすごくやさしい女の子なんだよ。


***


 たぬちゃんがおとしものを拾ったという場所に行くと、そこにはふたりの人間の子供がいた。


 いつもたぬちゃんが一緒に遊んでるくらいの年ごろの、男の子と女の子だ。


 男の子は前かがみになって、女の子は中腰で、なにかを探しているようす。


「タッくん。ほんとうにこの辺りで落としたの?」


「うん……。あのね、キーちゃん。付き合わせちゃってごめんね」


「いいってば。タッくんと妹の晩ごはんなんでしょ? そんな大事なもの、ほうって帰るわけにはいかないよ」


「ありがと……キーちゃん」


「それにしても、ないねぇ」


「もしかして、誰かが持ってっちゃったのかなあ……」


 彼らのやりとりを見ていたぼくは、確信した。


「たぬちゃん、きっとあの子たちだよ」


「じゃあヒトに化けてとっとと返してくるかね」


 たぬちゃんがおでこに葉っぱをのせた。

 やっぱり緑色が似合うなあ。


「……ん、あれ? ちょっと待ってたぬちゃん。あの子、なにか持ってるよ」


<つづく>

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