第15話 1991年秋「作戦会議」
「私は…やっぱり…気持ちを伝える」
文化祭の片付けの後、旧体育館の出入り口の階段に座って僕と上原さんは話し合いをしていた。
二人であーでもないこーでもないと話しはするが、作戦会議は遅々として進まない。
いくつか意見は出るものの、どれも作戦と呼べるほどのものでは無かった。
作戦案その1
ゆみの悪口を有る事無い事でっち上げて、悪い噂を真中さんの耳に入れ、ゆみのことを嫌いにさせる。
ボツ理由
これは僕が全力で反対した。
ゆみの悪口を広めるなんてとんでもない。
作戦案その2
上原さんが如何に素晴らしい女子かということを、大げさに広めて真中さんの耳に入れる。
ボツ理由
大げさでも何でもなく、上原さんは既にモテる。
かわいい、スポーツもできる(元女子バスケ部キャプテン)、勉強も学年トップクラス、誰とでも分け隔てなく接する優しさ等々…。この学校の生徒なら誰でも知っていることなので、これ以上良い噂を広めようが無い。
そして最終的に上原さんが出した答えが、ストレートに気持ちを伝えるということだった。
決行日は約2ヶ月後の12月24日。2学期の終業式の日であり、クリスマスイブ。プレゼントを用意し、告白するという。その日までに真中さんの気持ちを、ゆみから上原さんにどうやって動かすかという課題が残る。
しかし高校受験、そして卒業が控えている上原さんには、その日がギリギリのラインだ。うまくいってもいかなくても、その後は受験勉強に力を入れなくてはいけない。まぁ、地元の高校に行くらしいので、勉強の方はたぶん余裕だろうということらしいが…。
「うまくいくと良いですね」
「あ〜〜〜、結局作戦らしい作戦なんか無しでこうするしかないのか〜。昨日あんなの見たあとだから自信なんか全然無いのに…」
本当に自信なさげに頭を抱えて悶えている。
ふと、気になったことがあるので聞いてみた。
「あ、でも、もし付き合えても、卒業したら会えなくなりますね」
「ん?あれ?言ってなかった?真中君とは小学校が同じで家も近く。だからいつでも会える」
「ということは、もしかして小学校の頃から片想いですか?」
「何よ、悪い?」
なるほど、だからモテるのに今まで誰とも付き合ってこなかったのか。一途な人だなと、なんだか可愛く思えた。…そんな気持ちを紛らすために余計な一言を言ってしまう。
「…ふられても、卒業してから家の近くで顔を合す事もあるかもしれないと…」
「え、縁起でもないこと言うなぁっ〜〜〜」
また頭を抱えてしまったので、ちょっといじめすぎたかなと反省した。
上原さんが突然バッと顔を上げ、僕の方を見てきた。
「で、裕輔君はどうするの?」
「うっ…」
そうだ。次は僕の番である。
僕の場合、卒業間近の上原さんと違って時間はある。
そして、昨日の真中さんからの告白への、ゆみの答えからすると、今すぐ僕の気持ちを伝えるのはダメな事はあきらかだ。
ゆみは言っていた。
『付き合うとかよくわからない』
『自信がない』
自信………自信って何だろう。
「自信って、どうしたら持てるんですかね…」
「うん?どうした急に。そんなの私が知りたいって…」
「そ、そうですよね。スミマセン」
「「ん〜〜〜………」」
二人して頭を抱えてしまった。
しばしの沈黙の後、上原さんがポツリと言った。
「あ…努力…」
「え?なんですか?」
「自信を持つには努力するしかないのかなって」
「努力ですか」
「私、バスケでドリブルだけは、すっごく練習した。誰よりも努力したから負けないって自信があったし、試合でも一対一でボール取られたこと無かった」
なるほど。さすが先輩だと、上原さんのことを少し尊敬してしまった。
自信を持つには努力して、自分を磨くしかない。
自信とは、自分を信じること。
「よし、じゃあ私は明日から真中君に私のこと少しでも意識してもらえるように話しかけるようにする」
「僕は…」
先ずは勉強もスポーツも、ライバルであり目標でもある真中さんに近づけるように努力する。
名字が同じというだけで、今までも意識はしてた。
デキる方の真中、デキない方の真中と言われるのが嫌だったから。
でもどうせ努力するなら、これからは目標を超えてやる。
…というような事を上原さんに話した。
「お互い、やることは決まったね」
「はい。とりあえず、今度の中間テストでは全教科80点以上を目指します。あとは、体力付けるために毎日部活以外でも走ることにします」
「え〜っ、そこは全教科100点って言っとこうよ〜」
「それは無謀な挑戦です」
初めは、作戦会議なんか意味があるのかと思っていたけど、終わってみるとやって良かったと思えた。
上原さんのことも、何だかんだあるけど頼りになる先輩だなと好感が持てた。
先程タケからの『二人は付き合ってるのか』という発言をうけ、今日は一緒に帰るのをやめておいた。周りからあらぬ疑いをかけられるのは、今後自分たちのためにならないと判断したからだ。
そして作戦会議も今回で終了。解散。
バス停に着いたのは、最終バスにはまだまだ余裕の時刻だった。
発車まで待合室で座って待つことにした。
そこには実可子がいた。
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