第14話 1991年秋「祭りのあと」

 結果を先に言うと、僕たちのクラスの劇は賞を逃した。


 体育祭と文化祭、学年1位の賞状は2枚とも2組に持っていかれたことになる。


 文化祭後のホームルームで、担任の先生がとても悔しがっていた。

「うう〜、すっごい悔しい。みんな頑張ってたのに。先生は絶対に1番良かったって思ってるから」


 まだ20代後半の若い女性の担任は、生徒よりも行事に一生懸命だった。目を真っ赤にしながら悔しがる先生の話を聞いていると、僕たちの方が冷静になれた。


「先生、泣かないで」

「結果は悔しいけど、俺らすごく楽しかったし」

「そうそう、準備期間が1番楽しかったなぁ」

「それに、団結力はウチのクラスが1番やと思う〜」


 みんなが口々に慰めの言葉をかけたから、先生は余計に泣いてしまった。


 みんなの言う通り、準備期間は毎日楽しかった。

 クラスのみんなと一つのモノを作るのは、とても充実した日々だった。そんな毎日が終わるのが寂しくて、本番の日が来なければいいのにと思ったりもした。


 先生の涙が止まらなくなったせいで、女子も何人か泣き出してしまった。

「みんなごめんね、なんかしんみりしてしまったな。よし、最後にみんなで写真撮ろう!」


 先生の一言で、全員立ち上がって机と椅子を教室の後ろに寄せて、黒板の前で集合写真が撮れるように並んだ。

 2組の先生を無理やり引っ張ってきてシャッターを押してもらい、写真撮影の後は自然と円陣を組んでいた。


 

「せーのっ、1の1〜」

円の真ん中でと先生が大声で叫ぶと

「サイコーーー!!」

と、打ち合わせもしていないのに皆の声がそろう。


 まるで優勝したような盛り上がりを見せられ、2組の先生は呆れて自分の教室に帰って行った。


 ホームルーム終了のチャイムが鳴り、各自机と椅子を元に戻したところで先生が締めの一言。

「はい、じゃあもうすぐ中間テストなので、みんな次は勉強頑張ろうね〜」

「先生、それ今言う?」

 誰かのツッコミで、教室がどっと笑いに包まれた。




 そして放課後。


 まずは大道具班最後の仕事、解体作業だ。

 約2週間かけて皆で作ったセットを解体するのは勿体ない気がして、そしてこれが終わったら本当に文化祭も終わって日常に戻ると思うと、少し寂しい気もした。

 と、感慨にふけっている僕の周りでは他のクラスがどんどん解体作業をすすめていた。

 その中に、上原さんの姿もあった。

 目が合うと、そっとこちらに近づいてきて

「これ終わったら、ここで待ってて」

 と僕だけに聞こえるように言うと、また作業に戻っていった。


「さぁ、俺らもやるか」

 男子バスケ部で唯一クラスが一緒のタケ(上田剛)の一言で僕らも作業を開始した。


 劇の本番終了後、前日と同じように旧体育館に保管していた大道具を外に運び出し、ある程度の大きさに解体してから産廃業者のコンテナに入れていく。


 作業ももう少しで終わりになる頃だった。

「裕輔ー、手伝いに来たよー」

 声のしたほうを振り向くと、そこにいたのは実可子と南さんと、ゆみだった。


「手伝いにって…、もうほとんど終わってるけど」

 実可子に向かってそう言うと

「じゃぁ、最後手伝うからチャチャっと終わらせて一緒に帰ろう。で、お礼に私達3人にジュースおごってね」

 お礼ってなんやねんと突っ込もうとすると、

「ちょっと、実可子…」

「あれ?実可子ちゃん、ちょっと様子を見に行くだけっ…」

「はいはいはい、いいからいいから。さっさと片付けよ」

 強引に話をすすめる実可子とは違い、南さんとゆみは

「なんかごめんね」

 と申し訳無さそうにしていた。


 と、ここで重要なことに気付く。

(あ、この後の上原さんとの約束が

 …)


「あのさ…片付けの後ちょっと用事があって…」

「少しくらいなら待ってる」


 今日の実可子は強引だ。いや、いつもか。


「でも、遅くなるかも。ゆみと南さん待たすの悪いし…」

「…じゃあ、私だけ待ってる」


 何故そこまで食い下がるのか疑問に思っていると、

「実可子、今日なんかおかしいよ。一緒に帰るのはまた今度でも良いやん」


 ゆみが助け舟を出してくれた。


「…わかった。ゆみがそう言うなら…。これ、最後のゴミ。捨てといて」


 全然納得してない感じではあるが、実可子はそう言って、三人で帰っていった。


「なんか揉めてた?」

 タケが心配そうに聞いてきた。


「ん?いや、大丈夫。なんでもないから」

「ふーん。俺らも帰ろう」


 その時、僕たちの方に近付いてくる上原さんが目に入った。視線をチラッとそちらに向けてしまったのをタケに気付かれた。


「ごめん、ちょっと用事が…」

「あ〜…。も、もしかして2人付き合ってる?」

「いやいや、そんなわけあるかっ」

「な〜んか最近仲が良いからさ。疑ってる奴、他にもいるで」

「え?いやそれは…」


 周りからそんなふうに見られていたとは思ってもみなかった。確かによく話しはしてたけど、その理由を言うわけにもいかず黙り込んでしまう。


「でもまぁ、お前なんかでは釣り合うわけ無いか。じゃあな」


 最後にグサッとくる一言を残してタケは帰っていった。否定はできないけど…

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