第7話 1991年夏「打上花火」

 8月に入ると部活は無くなり、本格的に夏休みに入った気分だった。


 小学校が一緒で家も近いげーさんとは、お互いの家を行き来して他の友達を誘ってテレビゲームをしたり、時々宿題をしたり、よく遊んだ。


 家は遠いけど、自転車で行ける距離に住んでいるタケとイカケンとは、たまにバスケをした。


 ちなみに、タケの本名は上田 たけしで、イカケンは井河いかわ健太郎だ。


 イカケンの家にはアスファルトの駐車場にバスケットゴールがあり、3on3ができるくらいの広さがあった。

 初めての行った時あまりの立派な設備に感心して

「すげーな。まさか、バスケのために駐車場にアスファルトひいて、ゴール買って貰ったんか?」

 とたずねたら

「ゴールは、兄貴もバスケやってるから、じゃあ2人で使えってことで買ってくれた。」

 そうだった、先日引退した3年生に兄貴がいた。


「アスファルトは昔からあったから、バスケするのにたまたま都合が良かっただけ。まぁ、たまたまや。」


 そう言う彼の家は、母屋に離れに、あと、蔵まであってとてもデカかった。

 バスケ部1年男子5人で集まっても3on3には人数が足りないのが残念だった。


 そんな感じで充実した夏休みは過ぎていくのがはやく、あっという間にお盆がきた。


 毎年8月16日は、町の夏祭りと花火大会が開催される。


 軽めに夕食をすませ、家族そろって父の運転で祭り会場に向かった。


 会場はバスの駅の近くの役場の駐車場だが、周辺では普段は絶対にあり得ない交通渋滞がおこり、歩道は人で埋め尽くされていた。


 会場の周りをぐるりと様々な屋台が囲み、威勢の良い声があちこちで飛んでいる。

 真ん中にはやぐらが組まれ、やぐらの上では和太鼓を叩く人と、マイクを持った着物姿のおじさんが盆踊りの何とか音頭を延々と歌っていた。

 やぐらの周りには円になって、踊っている人たちもいる。


 いつもは静かな山郷町が、この日だけは活気と熱気に溢れ、終わっていく夏を惜しむように皆で楽しむのだった。


 家族と屋台を覗きながらブラブラしていると、オッサンに出会った。オッサンの本名は小山内勇おさないいさみだ。


「よう!」とお互い声をかけ、一緒に行動することにした。


「9時までには車まで戻るから。」

 と家族に告げ、ヤキソバを買ってから、人混みを避けて会場から少し離れた場所の階段に陣取った。


 オッサンとは家が遠く、8月に入ってからは久々に会ったので、この半月何をしてたかを報告しあった。


 突然、後ろから肩をトントンっと叩かれたので反射的に振り向くと、僕の肩に置かれた誰かの手の人差し指が、頬に刺さった。

「やった。引っ掛かった~。」

 聞き覚えのある声にドキッとし、暗がりの中でマジマジと顔を確認すると、そこにはケラケラと笑うゆみと実可子がいた。

「えっ?なに?いや、ほっぺた痛いし。」

 久しぶりに会えたというのに、急な登場に気が動転して、何とも間抜けな一言目だった。

「あのな~、もし人違いやったらどうすんねん。」

 オッサンにそう言われたゆみは

「その時は逃げる。でも、間違えないから。」

 言いながら、2人は僕たちの1段下の階段に座った。


「あれ?二人は浴衣着てないな。」

 実は僕もそこは残念に思っていたところだったけど、オッサンが代弁してくれた。


「え〜!浴衣って大変やし、歩きにくいし〜。」

「実可子はいつも大股で歩いてるもんな。そりゃ、浴衣では歩きにくいか…。」

 ベシッと肩をしばかれた。


「ん〜、…来年は挑戦してみようかな。実可子も一緒に着よ。裕輔も私達の浴衣姿見てみたい?」

 まさか、ゆみからそんなことを聞かれるなんて思いもよらなかった僕は「はいっ!もちろんです!!」と心のなかで叫び、

「えっ?うん…俺はどっちでも…。」

 と答えて少し後悔したのだった。



 ヤキソバを食べ終えた僕たちの目の前で、ゆみと実可子はたこ焼きを食べ出した。


 4人で夏休みの報告会をした。

 オッサンとゆみは小学校が一緒で、家も近いらしく、どこどこのおっちゃんは酒癖が悪いとか、あそこの家族は今年は海外旅行へ行ったらしい等、地元の話題で盛り上がっていた。

 

 実可子と僕は家が近いので、時々顔は合わせていたが、昔のように男女一緒に遊ぶことは無かった。


「たこ焼きのソースのにおい、たまらんな。」

 オッサンに同意を求めると

「ああ、また腹減ってくる。」

「仕方ない。はい、どうぞ。」

 前に座っている実可子からたこ焼きを差し出されたオッサンは、「いただきます」と、つまようじで1つたこ焼きを刺して口に放り込んだ。


「じゃあ、私からもどうぞ。」

 ゆみが、船皿を僕の目の前に差し出す。

「あ、やっぱり待って。」

 1度差し出した皿を引っ込め、自らつまようじに刺して、もう一度、

「はい、あーん。」

 と言いながら僕の口元に持ってきた。

「ヘ?うん、あーん。」

 はふはふ言いながらたこ焼きを食べながら、隣からの視線に気が付いた。

「おいおい、2人はいつからそういう仲に?」

 オッサンに突っ込まれて、はっとした。

 ゆみのあまりにも自然な動作に、僕は何の違和感も感じず、あーんしてしまったのだ。

「えへへへ。一回やってみたかってん。」

「いやいやいや別に、そういう関係とかないから。」

 慌てて言い訳をする僕。


 実可子がニヤニヤしながら、

「いやっー、不純異性交遊っ。」


「不純異性交遊ってっ。」

「不純異性交遊ってっ。」


 ゆみと僕は見事にハモった。


 ドンっ

 ヒューーー…

 バーーーン


 見上げると、夜空には花火が上がっていた。


「さぁさぁ、どうぞ円に加わって皆さんも踊りましょう。」

 歌の合間に盆踊りを誘うマイクの声が遠くから聞こえてきた。


「わ〜、ここ花火がよく見える。」

 花火を見上げながらゆみが嬉しそうに言った。

「来年も再来年も、ずっとみんなで見れたら良いのになぁ。」

「ああ。」

「うん、そやな。」



 僕としては、ゆみと二人が良いのだけれど…。









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