第2話 1990年夏「きらきら」
その当時、町内には6つの小学校があった。人口に対してやけに多い気もするが、何せ周りは山だらけで町の面積はそこそこ広い。しかし通学は徒歩でとなると、小学校は各集落に1校づつ、そんな感じだった。
毎年、夏休みの1日を使って、6つの小学校から6年生の男女各1人づつ代表者が集まって交流会が行われていた。
6校もある小学校に対して、中学校は1校だけ。参加者はみんな、将来の同窓生だ。各小学校の良いところの発表をしたり、全員でレクリエーションをしたり、夜にはキャンプファイアもある。
引っ込み思案で、自分から他人に話しかけるのが苦手だった僕は参加するつもりは無かった。
しかし、立候補する奴がいなかったため、仕方なく男女に分かれてジャンケンで決めることになった。
僕の通っていた小学校の同級生は男子3人、女子3人。勝負は一回でついた。
ジャンケンの結果、僕は男子の代表者に決まってしまったのだった。
当日、女子の代表の原野実可子と一緒に担任の先生の車で、交流会の会場である町内で一番大きな小学校に向かった。
実可子は、僕とは違い社交的な性格で、6人の中ではリーダー的な存在でもあった。だから代表に決まったことは順当と言えば順当なわけで。
僕の方はというと、同い年ばかりが集まるとはいえ、知らない人ばかりのところに行くのはとても緊張した。…正直に言うと行きたくはなかった。
案の定、周りがどんどん仲良くなっていくなか1人浮いてしまった僕は、皆が遊んでいるのをグランドのフェンスにもたれて眺めていた。
その時、自分でも気づかないうちに1人の女子を目で追っていた。背がすらりと高く、デニムのスカート姿が他の女子よりも少し大人びて見えた。髪はサラサラのショートボブで、二重で大きな目は笑うとすごく細くなりとても愛嬌たっぷりだった。
最初は他の子たちよりも、なんか気になる程度だったのが、だんだんと目が離せなくなっていった。
その子が、実可子と一緒に僕の方へ歩いてくるのに気付いた瞬間、何だか恥ずかしくてわざと違う方を向き、気づかないふりをした。
「ねー、裕輔、1人で何してんの。なんかさみしい奴みたいやん。」
「う、うるさいな。いいやろ別に…。」
情けない返答しかできず、ますます彼女の方を見れなくなってしまった。
「えー何何、実可子の彼氏?」
「ちがっ…」
「違うし。」
大慌ての僕にとは違い、実可子は冷静に否定していた。
彼女の名前は田渕裕実といった。実可子とはピアノ教室が一緒で、前からの知り合いらしい。僕からは何も聞けなかったけど、全部実可子が説明してくれた。
「私、中学ではバスケ部入ろうと思ってるんやけど。裕輔君背が高くていいなぁ。」
「いや、別に。よく頭打って不便やし。」
こんな返事しかできない当時の僕は本当にどうしようもない奴だった。
確かに昔から背が高いのだけが取り柄で、春の身体測定の時点で160㎝あった身長は順調にまだまだ伸び続けていた。
「2人もバスケやろうよ。」
「ん~私は吹奏楽がやりたいかな。裕輔は?」
「え?う~ん…まだ何も考えてないけど。」
この時、バスケ部に入ることは僕の中で決定事項になっていた。
その後、3人で話をしている間に、というか実可子と田渕さんがしゃべっているのを僕が聞いている間に日が沈んで辺りは薄暗くなり、キャンプファイアが始まる時間になった。
各校の担任の先生や手伝いに来てくれている数人の先生たちも加わり火の周りで輪になって集まった。
出会ったばかりなのに馴れ馴れしく田渕さんの隣に行くのは何だか気が引けて……恥ずかしくて、彼女とは4、5人の人をはさんだ場所で輪に加わった。
少し離れた位置からだったので気付かれずに、炎に照らされた田渕さんを堂々と見ることができた。
昼間とは違う顔の陰影、大きな目に映る炎。それら全てがとても神秘的に見えて、ますます彼女に魅かれていく自分がいた。
気づいたのはだいぶ後になってからだったが、これが生まれて初めての一目惚れというやつで、そして初恋だった。
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