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とはいえ、ニニにはその実感がまだあまりない。それまで暮らしていた小さな
悪魔であるダンタリオンと契約を結び、彼の魔力に
だが、彼女には、ずっとそこにとどまっているわけにはいかない事情がある。
そろそろ外の世界を見てみたい、と願い出てから半月あまり。数日前、ようやくのことで希望が聞き入れられた。屋敷の周囲をダンタリオンと手をつないでぐるりと歩くだけのことではあったが、それはたしかに大きな一歩だったのだと思う。ニニにとってではなく、むしろ
今朝になって、過保護な悪魔は、今日は少し離れたところまで月光草を摘みに出かけてみようか、と言い出した。彼のほうからそんなことを言ってくれるとは予想すらしていなかったニニは、驚きながらも
だが、さきほどのようなうっかりを披露してしまうと、あるじの過保護が復活してしまいかねない。彼の優しさには感謝しているが、それに甘えてばかりいられないことはニニ自身がだれよりもよく理解している。しっかりしなくちゃ、と彼女は思う。
「ニニ、どうだ?」
ダンタリオンがすぐそばに立っていた。常磐色の双眸が静かに見下ろしてくる。
「まだもう少しかかりそうです」
いっぱい、というにはまだ余裕のある籠を見せると、ダンタリオンはわずかに頬を緩めた。収穫に満足したというよりは、ニニの懸命さを褒めるような笑みだった。
「じゅうぶんだ。少し休憩にしよう」
「朝ごはん食べたばかりですよ?」
「喉が渇いただろう。
甘いおやつの誘惑にニニの山吹色の瞳が輝きを増した。ダンタリオンは笑みを深め、おいで、とニニの手を取った。
月光草の群生地から少し離れたところに、すっかり葉を落とした古木がある。その木を囲むようにゴツゴツと張り出す岩のひとつに、ダンタリオンはニニを座らせ、自身もすぐ近くに腰を下ろした。月光草を入れたふたつの籠は彼らの足許に並べられている。
ダンタリオンの手がひらりと宙を舞う。まるで、そこにしまわれているものを取り出すような仕草である。彼が手を下ろすと、なにもないはずの空中から赤い果実水の入った瓶と小さな布の包みが落ちてきた。ニニは慌てて腕を伸ばし、それらを胸に抱き止める。
「この檸檬クッキーは
普段はあまりしゃべらず、表情にも乏しいダンタリオンだが、菓子のこととなると話は変わってくる。この
ちなみに
「ニニ、僕にも果実水を」
ニニが持っていた包みを取り上げてほどき、さらに瓶を手にとり、ダンタリオンは上機嫌で言った。
「さ、朝のおやつの時間だ」
ふたりの手にあった果実水の瓶の栓が同時に、ぽん、と音を立てて
もうすっかり見慣れてあたりまえのものに思える魔力だが、ときおりはやっぱり驚かされる。はじめてのときほどではないにしても、宙から菓子を取り出されたり、手も触れずに瓶を開けたりされれば、その手品のような光景から目が離せなくなる。
「ニニ、食べてごらん」
ダンタリオンは指先でつまんだクッキーをニニの口許に運んでくる。ニニは慌てて
蜜苺の果実水をひと口飲んでから、クッキーをかじった。隣ではダンタリオンがわくわくした顔つきで使い魔の感想を待っている。
「……お、おいしいです」
「そうだろう!」
「わざわざ人間の世界まで出向いて檸檬を手に入れてきた
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