第12話 襲撃、高速起動メカ

 警備隊が城壁に近づいてきた時、ヒポタスは茂みの陰から静かに動き始めた。

 王国の城壁がバズーカ一発で吹っ飛ばされるのをみんな車内から見ていた。ステラは心が引きつるようだった。なんと言うひどい仕打ちをするのだ。しかもあの警備隊員はもともと宇宙連邦の本部からこの星を守るためには遣された者たちではないか、正義も法もあったものではない。ソフィーは黙っていたが、20年前と同じ恐怖が、自分の祖国が侵略される無念さが、ひしひしと伝わってくる。

 ステラは窓から遠ざかって行く王国を眺めて思った。

「喜んでいる人は、誰一人いない…何のための戦いなの?!」

 父は、カペリウス隊長はどうなってしまうのか…。だがその時、避難していた四駆のヒポタスが突然止まった。まだ城壁前広場さえ抜けていなかった。ガイドアンドロイドのマノンが叫んだ。

「みんな気をつけて、奴らに気付かれた。連邦の高速起動メカが襲ってきたわ」

 まだ走り始めたばかりだと言うのに、なんとヒポタスの前方に、四本足の猛獣のような機敏なメカが現れ、車を止めようと接近してきたのだ。先ほど出発の時にぐずぐずしていたのがやはりまずかった?!でもすぐに逃げなかったから警備隊の不穏な動きも分かったのだ。だが、それを見てしまったといいうことは…。

 城壁前広場の真ん中で、マノンがハンドルを切って振り切ろうとするが、ブレードクーガはさらに機動性が高くピッタリと着いてきて、しかも前方に回り込んでくる。

「みんな、しっかりつかまって!」

マノンは前方に回り込んだブレードクーガにヒポタスのボディをわざと衝突させ、跳ね飛ばして、そのまま一気に突っ走ろうとした。だが、アクセルを踏もうとした時、別のメカが、ヒポタスを抑え込んだのだ!

「何これ、ゴリラの怪物?」

身長が3m以上ある、ブレードコングがヒポタスを、その二本の巨大な腕で抑え込んだのだ。そしてぐいぐいと締め上げる。エンジンの音がうなる、タイヤが地面をこする!大きく揺れる車内、金属のきしむ音、窓ガラス越しに恐ろしい怪物の顔がのぞく。このままでは車が破壊されてしまう?!

「みんな、すぐに車の外に出るのよ」

ステラが、ソフィーが転がるように飛び出て、最後にマノンが飛び出した時、あの大きなヒポタスの車体は持ち上げられ、投げ飛ばされ、最後にはごろんと横倒しにされてしまった。なんという怪力だ。

小型宇宙船のコクピットでは、その様子をケリー・バーグマンがモニターで見て、ひとりごとを言った。

「あれだけ、急ぎなさいって忠告したのにね。なぜぐずぐずしていたの…」

「どうしますか?」

副官のエッシャーが指示を求めた。

「あの子たちには悪いけど、今までここにいたということは、たぶん突入部隊のことも見られているわね。まずいわ。エッシャー、車に乗っていたメンバーは人質にするわ。すぐに確保して」

「了解」

すると残っていた副官のエッシャーが、さっと近付いてソフィーとステラ、そしてマノンの三人を捕まえようと手を伸ばした。

「わかるだろう?抵抗しても無駄だ。君たちに勝ち目はない。おとなしくこっちに来るんだ」

するとステラが叫んだ!

「ちょっと、あなた、さっきケリー・バーグマンと親しそうに話していた人でしょ。一体誰なの、ケリーとどういう関係なの?!」

「ちっ、まさか見られていたか、じゃあ、なおさら口を塞いでおかないとな。さあ、こっちへ来るんだ」

「いや、絶対いや、放して!」

ステラがその手を振り払うと、隣にいたソフィーの手をとり走り出した、

「逃げても無駄だぞ!」

副官のエッシャーが手で合図すると、あの大きなブレードクーガが唸り声を上げながら行く手を遮った。

「ガルルルル…」

「キャー!」

しなやかな動きで、まとわりつくように威嚇するブレードクーガ、だがステラの悲鳴に、マノンが反応した。

「危険です!」

マノンの足に装備されたジェットシューズが火を噴いた。マノンはジャンプしながら地面をすべるように移動し、あのブレードクーガの鼻先から、ステラとソフィーを抱えて数十メートル先まで運んだのだった。だがこれ以上は運ぶのは無理だ。マノンは、二人を降ろすと、さっとほほ笑みながら振り返って身構えた。

ブレードコングが、ブレードクーガが、こちらに追いかけてきていた。

「とにかくここから逃げなさい!少しでも時間稼ぎをしますから」

同じ20才のステラとソフィーは、過去の同じ事件の被害者であるステラとソフィーは、しっかりと手をつないで広場を走り出した。二人は運命に立ち向かい、切り開いていったのだ。足の速いブレードクーガが、みるみる接近してくる。マノンはもちろん戦闘用のアンドロイドではない。ただ、この惑星のネイチャーガイドであり、いつも危険な野生動物から観光客や子どもたちを守って来た、だから…体が動いた。正面からぶつかって行ったら、ブレードクーガの鋭い牙に噛み砕かれるのは間違いない、マノンはあの唐辛子弾をブレードクーガの顔に向かって発射した。

「ばかな、メカに唐辛子弾が効くかな?」

副官のエッシャーが怒鳴った。だが、液状の真っ赤な唐辛子弾は、ブレードクーガの視覚センサーにべったりと張り付き、視界を奪い、なんとブレードクーガの動きを止めたのだった。赤い液体を振り払おうと、もがく巨体。もちろんブレードクーガが自分でセンサーの赤いトウガラシをぬぐい取ることはできない。

「今だ!電撃アタック!」

マノンは斜めからブレードクーガのわき腹のあたりに突っ込んだ。野生動物に電撃ショックを与える放電パンチ攻撃だ。バチバチッと電機が走り、ブレードクーガの体が横倒しになる。いいくらか時間を稼ぐことに成功だ。そこにエッシャーが近づき、あわててクーガの顔面についた赤い液体を拭き取る。

その時、マノンが何かに気付いた。

「…間に合うかもしれない。ねえ、ステラ、ソフィー、聞いて!」

振り返る二人にマノンが叫んだ。

「今すぐ、広場の真ん中に向かって走って。そうすれば助かる。私を信じて!」

「はいっ!」

一体なぜ?でも理由はどうでもいい!広場の中心に向かって死に物狂いで走る二人。でもそのあと、猛獣の唸り声とともに、後ろでガツンと金属のぶつかる音が、引きちぎれる音、砕け散る音が聞こえた。

「マノン…さん…」

ステラは、後ろで何が起きているのか振り向くのが怖かった。ソフィーは祈った。

「…誰か…助けて…!!」

すると副官のエッシャーの声がした。

「小娘、止まれ、止まらないと撃つぞ!」

逃げられそうになってエッシャーは慌てた。隣にいた部下の銃が唸った。二人の足元を数発の銃弾がかすめる。

「きゃっ!」

バランスを崩し、倒れかかるステラ、ソフィーはステラを守るように副官エッシャーをキッと睨んだ。だがその瞬間、銃弾がソフィーの肩を貫いた。

「ウグゥ!」

それは貫通弾だった。外骨格を貫き血が流れた。がくっと膝を着くソフィー。

「ばかもの、女王変化している個体を傷つけてどうする?!」

エッシャーが部下を怒鳴った。

「ソフィー、なんて、なんてことなの?!」

「動くな!それ以上動くと次は命がないぞ。お前さんたちを守ってくれたアンドロイドももう動かない…」

「なんですって?!」

吹き抜ける風に、ステラの涙がちぎれた。地面に突っ伏したマノンと砕け散った部品が見えた。ブレードクーガが、マノンから離れ、スピードを上げながらこちらに歩き出した。その向こうからブレードコングの巨体が見える。

絶体絶命だった。

「なんだ?こいつらは?!」

六角錐の塔の前に昇りつめた突入部隊の前に現れたのは、小柄で武器も持っていない、見たことのない不気味な兵アリたちだった。

ただ、そいつらは武器や装備もないのに、こちらを恐れる様子もなく進み出た。

「どうしましょう?ニコル・ハント様!」

ニコル・ハントは映像分析人工知能を最大限に使いながら作戦を練った。頼みの貫通弾も火炎放射やバズーカ砲も今は使えない。だが、敵も小柄で武器も見当たらない…。

「下のでかい奴らや飛び道具を持っている奴らより、確実に計算上の危険な確率が下がっている、強行せよ、正面、左右に分かれて三方向から攻撃をかけ、やつらの出方を見なさい。しかし、罠ならばすぐに退却しなさい」

「はい」

昇って来た16人の突入部隊は三方から取り囲むように攻め込んだ。だがまず右の舞台の何人かが突然倒れ、そして地面に転がると、のたうちまわって苦しみ出した。何が起きたのか?!見ても何も分からない?!

「ぐおおお、目が、目が…!」

左の舞台が今度は目を押さえて苦しみ出した、中には全く目が見えないようなものや、苦しそうに呼吸を荒げるものもいた。また、正面部隊は、一番体の小さな子供くらいの兵アリたちに攻め込んで行った。

「…消えた?!」

が、その兵アリたちの姿がふっと消えたかと思うと、1人また1人と倒れて行った。

「みんなどうしたの?一体何が起こっているの?」

映像分析人工知能がやっとその答えを見つけて、退却命令を出したが、もう遅かった。右の舞台を襲ったのは、ワスプマスター、毒蟲使いだった。小型の蜂の群れが空中から襲いかかり、強烈な毒針を打ち込む、たまらず地面に逃げれば、いつの間にそこにいたのか毒ありがスーツの隙間から這い上がり、全身を噛んで刺しまくる。

左の舞台を倒したのはアシッドマスター、強酸使いだった。体内で強力な蟻酸を生産し、それを毒針から相手の目を狙って発射し、あるいは霧状にして風に乗せ、動きが止まると見れば野球のボール大にして打ち出す。突入隊員は、目を奪われ、呼吸器官が強烈に腫れ上がり、全身に強酸を浴びてのたうちまわるのである。

正面部隊は、高周波ソードや電撃バリを使って、体の小さな兵アリをすぐに葬るはずであった。だが、そいつらはアサシンマスター、暗殺者たちだった。もともと外骨格が薄く、アーマーもほとんどつけていない。だが、人間をはるかにしのぐ神経の反応速度と、身軽でしなやかな体を生かし、信じられない速度で動きまわり、相手の弱点に毒針を打ち込んで行くのだ。一瞬姿を消したかと思われる早さで動きまわる。また、彼らから見たら、この訓練された特殊部隊の隊員でさえスローモーションに見えるのだ。彼らは突入部隊の攻撃を難なくかわしながら、確実に首筋や後頭部のわずかな隙間に毒針を打ち込んで行く…。ニコル・ハントのメガネ画面に出ていた突入部隊の生体反応が、次々と戦闘不能に変わり始めた。

「ばかな…突入部隊全員戦闘不能?!」

ニコル・ハントはその映像を見てもまだ信じられない顔で、しかしすぐに決断をした。

「作戦は失敗した。これより退却を始める…」

そして副官のエッシャーに連絡した。

「作戦変更だ、ステラとソフィーを人質にして、これから宇宙空間に脱出する。ステラとソフィーは確保できているのか?」

するとエッシャーは口ごもった。

「それが…その…」

エッシャーは真上を見ながら舌打ちをした。すぐ頭上を横切る機影、そうグリフォンだった。グリフォンは広場の中央近くにいたステラとソフィーをすぐに見つけると、すぐ近くに降り立った。広場の真ん中に走れとはこのことだったのだ。柴崎や黒川たちがやっと到着したのだ。

肩を撃ち抜かれ、倒れかかったソフィー、近付くブレードジャガー。だが、そこにショットガンを撃ちながら、あいつが、ヒート・ロジャーが飛び出してきた。さっと銃弾を交わして飛び退くブレードジャガー。すぐにかけつけた黒川と小百合で、ステラと大けがをしたソフィーを確保してグリフォンへと連れて行く。柴崎は、あの小人のようなロボット端末、レプレコーンをつれて何かを始めようとしていた。

エッシャーが怒鳴った。

「いくらヒート・ロジャーでも、高速起動メカには歯が立つまい!ブレードクーガ、そいつから始末しろ!」

よほどの威力のある武器でないとこいつは破壊できない、だが、この素早さに対応して弾丸を確実にヒットさせるのも相当難しい。

ブレードクーガは踊るように跳びはねて向きを変えると、体をしならせ、ヒート・ロジャーに襲いかかったのだった。だが、ヒート・ロジャーは全く恐れず、自分から近づきトリガーを引いた。

「ネットランチャーだ。覚悟しな!」

空中で大きくネットが広がり、ブレードクーガの体を包んだ。あの鋭い超合金の牙で、あの鋭い前足の爪でネットを引き裂くことは容易いと思われたが、ブレードクーガは突然動きが止まり、そのままドスンと地上に落ちた。ネット全体に仕込まれた強力な電磁波が、動きを止めたのである。するとヒート・ロジャーは相棒のナイフのガッツを取り出し、高周波ナイフモードにして動きの止まったクーガに飛びついた。そして柴崎に教えてもらった、クーガの首の後ろの制御装置を一気に突き刺した。

「ガルルル…」

ブレードクーガは一声叫んで、電磁ネットの中でそのまま静かに停止した。

「一丁上がりだ。さてもう一台…あれ、一体どういうことだ?!」

その時王国の城壁の内側から、砂ぼこりとともに、何か巨大な群れが地響きを上げて近付いてきた。

それはあのネオプラハの街並みをめちゃくちゃにした、ゾウのような足と巨体を持つ甲虫、ケペルミネであった。それはまさに巨像の暴走、先頭のひときわ大きなケペルミネの上に、兵アリがまたがっていた。それこそが巨大昆虫を自在に操るビートルマスターであった。高速起動メカに襲われたソフィーの祈りに呼応して、やって来たのだ。

凄い突進力を誇るケペルミネだけでなく、怪力のクレーンゾウムシや、頑丈な工事屋モグラコガネも姿を見せる。

「グオオオオ!」

思わぬ敵の襲来に、威嚇するように腕を振り上げたブレードコングであった。だがケペルミネは、衝突の瞬間、いくつにも枝分かれしたあの複雑で強力な角を威嚇発光させながら、思いっきり突きあげた。

ガツン!!

鈍い、重い音が辺りに響き、あのブレードコングの巨体が吹っ飛んだ。ビートルマスターが超音波の笛を吹く、すると休む間もなく、群れで押し寄せるケペルミネの巨体がブレードコングを次々と突き飛ばしていく。態勢を立て直そうと立ち上がるコングを次にモグラコガネがタックルでふっ飛ばし、今度はクレーンゾウムシが投げ飛ばすと言う、反撃のきっかけさえ与えない連続攻撃だった。

「エッシャー、何やってるの、大急ぎで撤退よ!」

エッシャーたちが、宇宙船めがけて走り出した、あとからよろよろしながらブレードコングも追いかけていく。

宇宙船はコングが格納庫へ飛び込むや否や上空へと昇って行ったのだった。

その時、宇宙船に乗り遅れたのか、突入隊員の撤退組か、一人の警備隊員が、城壁の辺りからふらふらと歩き出し、広場の中央に着陸したグリフォンの方に歩いて行ったのだった。この男は一体?

少しして柴崎がマノンの部品を拾って帰って来た。マノンはもう修理もほとんど不可能な状態だと言う。黒川の子どものころからガイドとして親しまれていたアンドロイドは、もう二度と帰らないのか?!人の生活を便利にするはずのロボットがなぜ、ロボット同士で破壊し合うのか?!ハロルドももういない。黒川はロボットと人間の関係が、どこで、どう間違ってしまったのか、ずーっと考えていた。

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