第11話 クィーンタワーの戦い

 ズバーン!!

 突入部隊は王国への城壁をバズーカ一発で吹っ飛ばすと、そこから一気に侵入して言った。先ほどまで沢山行き来していた働きアリや巨大昆虫などは姿を消し、ひっそりとしている。気付かれたか?!まあ、やり遂げるだけだ。突入部隊の18人は、わき目も振らず、あのクィーンゼリーの保管されているクィーンタワーめがけて風のように忍び寄った。

「いたぞ、あれが兵アリか?」

 あのピラミッドのような螺旋の巨大なクィーンタワーの前に、ひときわ体の大きな屈強な7、8人のアンテラスが待ち構えていた。

「なんだ?! 4本の腕に、2つの武器と2つの盾を持ち、外骨格の上にさらにプロテクタ―のような鎧をつけているぞ?!」

 野生動物を倒すほどのつもりでいた突入部隊はその装備や武器に面食らった。

 だが、外骨格を撃ち抜く貫通弾を打ち出す銃を装備した突入部隊には歯が立たないだろうと、突入部隊は、銃を構えながら近付いて行った。

「うわ、矢だ!やつらボウガンを使うぞ。気をつけろ!」

 小型だが、非常に強力な矢が突入部隊の腕をかすめて行く。狙いもかなり正確だ。突入部隊は周囲の建物に隠れて矢をよけながら進むことを余儀なくされた。出てきたのは、グラジエーターと呼ばれる兵アリで、今は精巧なボウガンを使ってくるが、ソードや鞭、ファランクスと呼ばれる長やりまで何でも使いこなす戦闘のプロだ。その中の1人が、大胆不敵にも、4本の腕に4本のボウガンを装備し、四方向に打ち分けながら突進してきた。

「くっ、どこを狙ってるんだかわからない?!」

グラジエーターには大きな複眼といくつかの単眼があり、かなりの広い範囲を首を動かすことなく狙えるらしい。なんにしても高度な訓練を受けているのか、顔は正面を向いたまま、とにかく素早く正確に4方向の敵を狙い、貫通弾をぎりぎりでかわしながら突進してくる。

「お、矢をほとんど使い果たしたぞ、今だ、打てー!」

だが、突入部隊の貫通弾は、さっと取り出した盾とプロテクターに阻まれ、まったく致命傷を与えることなく、そいつはすごいスピードで退却して行った。突入部隊の映像はそのまま宇宙船で待機しているケリー・バーグマン、いや、ニコル・ハントに送られている。

「気をつけて、今来たやつは、分析の結果、あなたたちの人数と戦力をつかむためのおとりだったようよ。やつらは私たちが考えているより数段賢く、訓練されている。これから本格的な攻撃が来るわよ」

すると、このタイミングでグラジエーターの後ろから、動く甲冑のような重装備の巨大な兵アリが出てきた。

「おおおお!」

突入部隊がどよめいた。すごい迫力だ。身長は2mを越え、肩幅も広く、もともとの分厚い外骨格の上に、さらにアーマーを着こんでいるように見える。4本の腕には戦闘用の斧バトルアックスと数十本の矢を装備した連発式のボウガン、2つの大きな盾を持っている。バトルアックスを振り上げ、ボウガンと重厚なシールドを構えて、そいつらがゆっくり歩いてくる。4人並んでくるだけで凄い存在感、鉄の扉が押し寄せてくるような威圧感と迫力だった。こいつらはグラジエーターとは異なる、ヘビーウォールと呼ばれる兵アリだった。

「うろたえるな!接近戦に持ち込まなければ平気だ。貫通弾の威力を信じろ、打て!」

突入部隊が一斉に銃を撃つ、すると、ヘビーウォールたちは一瞬歩みを止め、そしてあきらかに貫通弾が効いているのか、及び腰になり、だんだん後ろへと下がり始めたではないか。はじにいた一体のヘビーウォールの体がよろめき、明らかに退却を始めた。

「お、効いてるぞ!あいつらは見かけ倒しだ、打て、打て!」

隊員たちはヘビーウォールの迫力に圧倒されていたが、貫通弾が効くとわかって、調子が出てきた。

「ようし、もうひと押しだ!」

だが、その時、あのケリー・バーグマンになり変わっていたニコル・ハントの声が全員の頭に響き渡った!

「しまった、やつらの作戦だわ、打つのをやめて!」

どういうことだ?!突入隊員たちは、その時気がついた。ヘビーウォールの重量級の威圧感に圧倒され、貫通弾をほとんど打ちつくしていたのだ。

ニコル・ハントに送られてきた映像には、ヘビーウォールの足元に、おびただしい銃弾が落ちているのが映っていた。そう、あの大きな盾とアーマーで、貫通弾のほとんどは跳ね返されていたのだ。

「ば、ばかな、やつらの外骨格を撃ち抜ける威力の銃弾が…」

確かに貫通弾の威力はすさまじかった。相手が働きアリなら即死、先ほどのグラジエーターでも当たれば深手を負っていたはずだ、だがヘビーウォールの盾とアーマーはすべてを跳ね返していた。ただ、ヘビーウォールには、やられたように見せかけて銃弾を撃ちつくさせるだけの演技力と知恵があったのだ。玉がほとんどなくなったと理解すると、ヘビーウォールは突然全くダメージのない様子で動きだし、その後ろから、またあの動きの素早いグラジエーターたちが、今度は忍者の鎖分銅のような錘の着いた鎖や、金属製の網、針のついた鞭などの変わった武器を手に飛び出してきた。

今度は中距離から、鎖分銅や金属の網が飛んできて、ぐずぐずしていると、手足をからめとられたり、身動きがとれなくなったりするかもしれない。動きが止まったら、あのすばやいグラジエーターたちに狙い撃ちにされて終わりだ…?

しかも、やつらは、訓練された動きを一人一人がするだけではない、ヘビーウォールが、グラジエーターが、タイミングよく交代し、効率よく協力してくる…。こちらはニコル・ハントに映像を分析してもらい、全員に指令を送ってもらっている状態だが、奴らは掛け声をかけるわけでも特別な合図を送っているわけでもなさそうだ。そう、あえて言うなら、集団として敵の攻撃を受けると、それが集計されて分析され、攻略法がいつの間にか練り上げられ、その作戦がすぐに全体に伝わるのだ。超感覚化、協同意識化、とにかく人間には理解できない、言葉の要らない伝達がそこにあり、整然とした集団行動が繰り広げられるのだ。

「このままではまずい、みんな、作戦Fでやつらの陣形を崩すから、どんどん螺旋の階段を上って行くのよ!…いいわね」

ニコル・ハントの声が響く。このままではやられると思った突入部隊の中から、大きな機械を背負った隊員がさっと進み出た。火炎放射器だ!

「ファイア!」

これは効いた。グラジエーターが、ヘビーウォールが挫ざっと避けて陣形を崩した。だが、動きの遅い火炎放射器は、やつらのボウガンの狙い撃ちに在ったボウガンの矢を足に受け、火炎放射器は早くも動けなくなり、その瞬間、ヘビーウォールの巨大な斧が空中をとんで背中に背負った燃料タンクに突き刺さった。

「ヒェエエエ!」

あわてて火炎放射器を脱ぎ捨て投げつける突入隊員、爆発、火柱が立ち、燃料タンクごと炎に包まれた。

早くも退却だ。このままではすぐ体制が立て直されてしまう?!ニコル・ハントは言い放った。

「ぐずぐずしてないで、陣形の崩れたところから隠し武器を使って強行突破よ、塔を昇るのよ。そしてやつらが追いかけてこれないように、マキビシ爆弾を使いなさい」

もう、貫通弾は頼りにならない。突入隊員たちは、装備したプロテクターの仕掛けを一斉に解き放った。

ある隊員の腕のパーツからは、高周波ソードが、ある隊員の手袋パーツからは電撃針が飛び出した。肩から手裏剣を高速で打ち出す隊員もいる。体制を立て直そうとする兵アリに、すきを与えず突っ込んで行く。グラジエーターの剣や鎖分銅を切りぬけ、走り抜ける。

「行くぞー!」

マキビシ爆弾を辺りにまくと、火炎放射器や小型バズーカなど、重い重火器を持った隊員を置いたまま、16人が風のように飛び出し、塔の周りをらせん状に昇って行く。

マキビシ爆弾は突入部隊以外の者が触ると爆発する小型の爆弾だ。さすがのグラジエーターたちも、すぐには追いかけて来られない。

「よし、一気にクィーンゼリーを持ち帰るぞ!」

とりあえず、これでもう作戦はぎりぎり成功するものと踏んで、突入部隊はスピードを上げた。だが、巨岩で組まれた土台に駆け上り、木材で組まれた六角錐の塔の前に躍り出た時、そこには、見たことのない種類の驚くべき兵アリたちが待っていたのだ。

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