第10話 ブラックジャガー

「レイトン提督、空港の基地のアンダーソン指令から連絡が入りました」

 通信室の部下が提督を呼び出し、提督の部屋のモニターにアンダーソン長官を映しだす。

 モニターを見ながら、アンダーソン長官と打ち合わせるレイトン提督。

「ミュリエル、基地のタイラー分析官から、第三の月の動きに関する詳細な観測データが送られてくる。すぐに受け取って避難計画の最終案を出してくれ」

「はい、急ぎます」

 だが、数分後、最終データを受け取った未来シミュレーター、メインコンピュータのミュリエルは突然レイトン提督に思いがけないことを依頼したのだ。

「…と言うわけです。海の進撃の規模は予想よりかなり大きい…。予想外の災害が考えられます」

「うむ、それは誰も考えつかなかった…。で、ミュリエル、解決策はあるのか?」

「空軍基地の格納庫に眠る、惑星開拓用の巨大ロボ、ガイアトラスの出動は無理でしょうか?」

「致し方ない。アンダーソン長官に直談判だ」

そして、レイトン提督はアンダーソン長官に折り返し連絡をしたのだった。

「まさか、そんなことが起こるとは…うむ。レイトン提督、一つだけ確認しておきたいことがあるのですが」

「うむ、おっしゃってください」

「今はゆっくり話し合っている時間がないことは分かっていますが、災害対策の大事な場面を、ミュリエルと言う機械の考えに任せて良いのでしょうか?」

レイトン提督は一瞬黙ってしまったが、モニターに映っているミュリエルのあの水晶玉の映像を見て少し考えそして答えた。

「はい、ミュリエルとは私がこの惑星に来てからの長い付き合いです。私は彼女を信じます。そしてその上で、精いっぱいのことをやらせていただきます」

するとアンダーソン長官は深くうなずいた。

「では、惑星開拓用の巨大ロボットの出動を認めます。同時に特殊パーツの仕様も認めます。わが開拓惑星に待機している巨大ロボットガイアトラスのコードネームは『0074;ブラックジャガー』、黒いボディの機体です」

その頃、柴崎や黒川は体調を救いだすための用意に走り回っていた。

「黒川先生、万が一に備えての医療トランクの積み込みがぎりぎり間に合いそうです」

「それはありがたい、これで事故にも対応できるぞ。ありがとう、白石君」

「はい、お役にたてて光栄です」

そこにヒート・ロジャーが飛び込んでくる。

「黒川先生よう、警備隊員たちはロボットなのか、人間なのか?」

「電波が復旧して、彼らの身体データがちゃんと送られてきている。脈拍や体温のデータも正常だ。彼らは人間だよ。ただし、小型宇宙船に、高速起動メカ等のかなり強力な武器を詰め込んで行ったようだから、簡単には行かないだろうって、柴崎さんが言ってたよ」

「なんだと、高速起動メカだと?じゃあ、武器を急いで選び直さないとな…」

その時、柴崎の胸のポケットの、レプレコーンが皆に知らせた。

「みなさん、私が本部のコンピュータと通信して、膨大なデータの中から、分かったことをお知らせします。ケリー・バーグマンは偽物です。本物のケリー・バーグマンは別の宇宙域で任務中です」

「じゃあ、あの女は一体誰だ?」

「宇宙連邦の諜報部の上級相サイン、ニコル・ハントだと推測されます。今のところ、敵なのか、味方なのかさえも分かりませんが」

するとヒート・ロジャーが言った。

「おれの親友のロバート・ギャレットを交通事故に見せかけて重傷を負わせ、代わりにやって来たのが宇宙連邦の犬か!ふっ上等だ、こうなったら、とことん叩き潰してやる!」

みんながグリフォンに向けて動き出していた頃、レイトン提督と統治官たちもセントラル公園へと向かって歩き出していた。いよいよ、住民たちをハニカムタンクへと移動させるのだ。テント村を撤収させ、地域ごとにハニカムタンクの階や部屋を割り当て、能率よく速やかに数百人を異動させなければならない。さらに災害に備え、救助本部や市民病院の機能をハニカムタンク内に移すことも急ピッチで進められていた。

第三の月が、海の進撃がすぐそこまで迫っていた。

柴崎は離陸寸前まで、グリフォンのコクピットでカペリウス隊長奪還の作戦を考えていた。

そして調査隊員用の予備のカード型ロボット端末を2台取り出すと、そのうちの1台を小百合に渡しながら言った。

「白石さん、あなたのロボット端末のフェアリーを作戦に使ってもいいかな?その間この予備の端末を使ってもらうと言うことで…」

「もちろんです。でも一体?」

そう、小百合のロボット端末と言えば、花の形をしたドローンの上に可憐な花の妖精のフィギアが乗っているあのフェアリーだ。

「ううむ、これならなんとかぎりぎり行けそうだ。実はね…」

フェアリーを手に取った柴崎がある提案を小百合にした。小百合はちょっと複雑な顔をしながらもうなずいた。

「ぜひ協力させてください、うまく行くといいですね」

すると柴崎の胸のポケットからレプレコーンがさっと飛び降りて言った。

「お任せください。力を合わせて頑張りますから」

一か八かの作戦だった。

「カペリウス隊長、私たちが行くまで、どうぞご無事で…」

そしていろいろな思いをのせて、多目的偵察機グリフォンは王国に向けて飛び立ったのだった。

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