第40話 介抱
次の日の朝、占い師はなかなか起きなかった。引っ越し前は休みを取ると言っていたので、Y子さんはそのままにしていた。
「おはよう、大丈夫? 」
「はい・・・本当に・・・ありがとうございました」
「言い過ぎたかしら? 」
「いえ・・・行ってくれたみたいです、ちょっと遠くから見ている人もいますが」
「そう・・・なんだか、運動会の次の日みたいに疲れているわよ」
「そうですかね・・・穏やかですよ・・・心は・・・・・」
今まで見たことも無いような彼女の姿だった。前は素の彼女を一言で言えば「挙動不審」だったが、今は「落ち着いた大人の女性」
そのものだった。
つきものがとれた、とは昔からある言葉だが、まさにそれであると思った。
「朝食、食べましょう」
「はい、ありがとうございます」
引っ越しの準備は大体終わっているので、この近辺を散歩しようと二人で話した。
「やっぱり信心深いのね」
よく見ないと気が付かない所に祠があって、石碑もあった。近くに大きい神社があるが、元々はここにあったらしい。神社も引っ越しをするのだ。
「神様がいる、とも思うのですが、ここで祈りを捧げた人もたくさんいますから・・・」
「故人のため? 」
「いにしえからのですから、まあ、郷に入れば郷に従えということもあります、それに・・・ここの方が本心を言ってくださるかと思いまして」
「本心、私の? 」
「ええ、よろしいんですか? その・・・食事を全部して頂いて」
「でも洗濯はあなたがしてくれるから」
「引っ越しの書類も全部やって頂いて、家賃も結局折半で」
「それでも最初考えていたより安く済んでいるから、私的には大丈夫。それに母が言っていたのよ「一人分の食事は作りにくい、他の人がいるから料理って作ろうと思う」って。ちょっと尊敬しちゃった」
「あなたは、親ガチャに当たったんですね」
「親ガチャ・・・誰が言ったのかしらね・・・すごい言葉。全てが含まれているわ、運、不運、ユーモア、切なさ・・・
私、当たりだったのかしら? 」
「大当たりでも困りますよ、あんまり親がすごすぎると子供も大変です」
「そうね、それはそう思うわ、適度だったのかしら」
「中庸も・・・幸福の一つの形です」
「これから・・・あなたはもっとお客さんが増えそう」
「あの・・・目標なんです・・・良いでしょうか・・・ここで」
「え、良いけど・・・私は・・・」
「本当にありがとうございます。私、あなたに救われました。あなたは私の足りないところを補ってくださる、本当に良い方です。
出来れば・・・もう少したくさん稼ぐようになったら、
あなたに私が・・・・
感謝を込めてお給料を払えればと思っています」
小さな神社に、少しだけ大きな声が響いた。
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