第39話 ゲリラ

「え! 引っ越しは明後日でしょ? 」


連絡もせずに夜中に新居を訪れると、占い師がとても驚いた顔をした。

さすがに一緒にいるとわかるものだ、占い師はY子さんに嘘をついていると言う事が。


「ねえ、私には良くても、あなたにはあまり良くないところなのでしょ? また・・・何かあるんじゃないの? 」


「大丈夫です・・・あの・・・どうもあなたは霊を「撥ねのける力」がとても強い方なので・・・あなたが一緒ならば・・・私・・・・」


「もしかしたら、何かあったの? 」


「ちょっとした・・・ポルターガイスト的な事です・・・気のせいかもしれません・・・」


「違うわよね・・・とにかくもう遅いから寝ましょう」


と、今日は二人で一緒の部屋に寝ることにした。ふとんはさすがに別々だった。




「あ・・・・・」


占い師の小さな声で目が覚めた。


「あ!! ああ!!! 」

占い師の声は徐々に大きくなった。


「止めて!! 止めて!!! 」

ピチッピチッっとY子さんにも音が聞こえた。コレが俗に言う

「ラップ音」というのかもしれない。体を起こし、震えている占い師を支えながら、何故かY子さんは驚くほど冷静だった。

自分の体にほんの少し違和感も感じるが、それは「気のせい」と言えばそうであるし、ラップ音にしたって、この数日、極端に暖かい日が続いたので、春と間違えて虫が羽化したのかもしれなかった。

そして何よりも、自分の隣で震えている彼女を、霊が「いじめている」

ようにしか思えなかった。


「人のために強くなるって言うけれど・・・」


心の中でそう言いながら、Y子さんは、ずっと言おうと思った言葉を

口に出した。


「もう、この人にずっと頼るのは止めて。

彼女は一生懸命にやっているわ。生きている人にも、あなたたちのように亡くなった方にも。自分の時間を犠牲にして、怒られるのも覚悟でやっているのよ。これ以上この人に何を望むの? 

占い師も、霊の見える人もたくさんいるはずよ、

お願い、この人だけにつきまとうのは止めて。

もし、どうしても未練があってそれを解決して欲しいのならば、

何かヒントを頂戴、警察に言えるようなヒントを。


今あなたたちがやっているのは、死んでも人をいじめているのとおなじこと、

更に罪を重ねてしまって、成仏も出来なくなるわよ、

お願い、もう止めて」


小さな常夜灯の中、Y子さんは部屋を睨み付けるかのごとく

堂々としていた。


そして、ラップ音も、奇妙な感覚もなくなったなとY子さんが感じたとき、占い師はY子さんにしがみつき


「ありがとう・・・・ござ・・・います・・・・

ありがと・・・・う・・・・・」


大人の言葉で、小学生のようにしばらく泣いた。



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