第36話 声

「先輩、あの取引先の良い感じの人がいるじゃないですか」


男性の後輩がY子さんに話していた。つまりこの若い彼に

「自分とY子さんのちょっとした架け橋になって欲しい」と言うのだろう。だが、不思議とその男性にはY子さん的に「好印象」が持てなかったので、失礼にならないように断った。

だが、内心は喜んでした。生まれて初めて「男性から誘われた」のだから。

「手慣れていると思われたかしら・・・そういうのが「駄目だ」って言われているのかもしれないわ・・・」


かといって、そうそうあそこに行くのも気が引けた。心配ではあるけれど、実はちょっぴり安心もあったのだ。


「あの占い師、結構当たるみたいで」


職場の若い女性が言っていたのを聞いたのだ。人の噂に乗れば、急に忙しくもなるだろうからと思った。そして二日に一回はライオンの所から、ちょっと忍び寄って、中から声が聞こえているのをうれしく思ったりしていた。


「そうよね、一万円じゃ学生は無理。だとしたら仕事帰りか、休みの日に社会人がやってくるわね」

格好が妙だと言う話も聞かないので、もしかしたら忙しすぎて霊の方も「遠慮している」のかもと考えると、Y子さんはその自分の考えが楽しくも思えた。


 だがどこか彼女の事が気になり、休みの前の日、夜に差し入れでもしようと思い立ち、家に行くことにした。だが

「先にトイレを済ませておかないと、あそこにはトイレがないし」

と近くのコンビニに入った。トイレの方にゆっくりと向かっていると、自分の横をスッと女性が通り過ぎて「店長すいません・・・」

という声を残して先に入ってしまった。


「今の声・・・」

Y子さんは女性用ではなくて、多目的のトイレで用を済ませ、コンビニで、そのことを確かめるため、しばらく待っていた。

トイレのドアが開く音と同時にそちらへ向かうと、


「どうしたの? 大丈夫?? 」


やつれ果てた感じの占い師がいた。

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